第46話:点火

(そりゃ、いい人だなとは思うけど)

要は先の響の発言を受け、心中でぼやいた。

もちろん、陽葵のことは少なからず好意的に捉えている。今まで見た誰よりも綺麗だと断言できるし、料理もできて、おまけに世話も焼いてくれる。少し抜けているところもあって完璧とは言えないが、そこも愛嬌だ。世の男性諸君なら、諸手を挙げて嫁に迎えたい人物像だろう。


(……でも)

花火に目を輝かせる陽葵を横目に、要は更に思考を巡らせる。

要の視界に映る陽葵は、やはり他の人と比べても魅力的だ。

ふと見せる笑顔、ふわりと香る甘い匂い。たまに甘えてくる姿勢、それに加えて学校では見せないという一面。要は未だなんのことかわかっていないが、紅音曰くあるらしい。彼女からは宿題と称され気づいてあげるよう言われているので、いつかは向き合わなければならない。


しかし、自分よりいい人などこの世にごまんといるだろう。彼女により似合う人も。俺なんかでは釣り合わない、そう思ってしまう。


「いや〜、やっと全部終わったな」


要の思案を遮り、響が隣で言った。気がつかなかったが、知らぬ間にこの作業を終わらせていたらしい。

ベンチの上には袋に入っていた通りに種類わけされた花火が並べられている。数は二百本を優に超えているだろう。舞海が大きいのを二つも買ってきたので、思っていたより多くなってしまった。


「もうちょい少ないと思ってたんだけどな……まあさっさと終わらせられてよかった」

「だな。俺たちもやるか。舞海のおすすめは、この線香花火らしいぞ」

「……あいつ、しょぼいやつ俺らに押し付けようとしてないか?」

「わからんぞ? もしかしたらなんかあるのかもしれん」

「絶対ないぞ」

響の発言を両断すると、彼はその通りだと言わんばかりに声をあげて笑った。


「あ、二人ともそれ終わったの? おつかれ〜!」

「舞海おまえ……よりにもよってめんどくさい作業を……」

「いや〜、ちょっと刺激を求めて……」

「それ、飽きたって言うんだぞ」

「まあまあ、よいではないか要くん。君もさっき、眼福だと言っていただろう?」

「えっ!? やっぱりひまりんのことを……」

「言ってない。ていうかやっぱりってなんだ」


陽葵に聞こえていないかと不安になったが、どうやら心配ないらしい。舞海に貰った次の花火に目を奪われ、こちらをチラりとも見ていない。


空色の花火に照らされる横顔を眺めていると、響が口を開いた。


「まあ俺たちもやろうぜ。あんまり帰るのが遅くなると、舞海が怒られちまう」

「おまえじゃないんだな」

「まあそれ抜きにしても、女子を遅くまで連れだすのはよくないだろ。舞海の親にも感心はされない」

「わからんでもないが」

無論要も帰るのが遅くなるのは避けるつもりだ。理由は響と同じである。


「そういうわけだから、さっさと始めるか」

「あ、わたしのおすすめはこの線香花火……」

「この太いやつにする」

「おっ、俺も」

「あ〜ん、それは次ひまりんにあげようとしてたのにぃ……」

残念そうに伸ばされた舞海の手を避け、要は点火スイッチを押し込んだ。

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