第42話:予定外の買い出し

時刻は十時を少し過ぎたほど。今夏の中でも幾分かマシな日照りを受けながら、要はげんなり、陽葵は揚々とした様子で、スーパーへの道のりを歩いていた。


最近行ったホームセンターの方が花火の種類は豊富なように思えるが、行きつけのスーパーはより近場である。


しかし要の『げんなり』は、この暑さによるものだ。彼女との外出を重ねるうちに、視線にもだんだんと慣れてきた。もちろん響たちと同じようにとは言わないが、初めに比べればそれなりに様になったのではないだろうか。


それに加え、陽葵にはもう一つ目的がある。


「要くん、何か食べたいものありますか?」

「ないわけじゃないけど……いいよ。もう食材家にあるのに、今から変えるのも悪いし」

「そんなこと言わず! 遠慮なくどうぞ!」

陽葵がここまで迫るのは、要のご機嫌を取るためだ。午後に待つ残りの宿題消化を遅らせれるかもしれないし、ひょっとしたら明日に回る、ということも有り得る。


そんな思惑を胸に秘め、陽葵は要に尋ねた。


「あ……ちょっと待ってくれ」

「? はい……あ、歩きスマホはダメですよ」

陽葵の叱咤しったを聞きながら、要はおもむろにスマホを取り出した。顔認証でロックを解除し、画面をスクロールする。

陽葵は首を傾げるも、とりあえず計画の第一段階が成功したことに内心拳を握った。通行人の邪魔にならないように隅に捌け、要からの返事を待つ。


「これ、作れるか?」

「ラーメン……ですか」

要が提示したのは、フォルダに保存された一枚の写真だ。画面上部に表示されている日付は十一月二十八日。今は八月なので、恐らく要がまだこちらに越してくる前の写真だろう。


「俺の地元の店なんだが、しばらく食べてないからな……できるか?」

「完全再現は食べてみないことにはほぼ不可能ですけど……それっぽいものなら!」

「まじか?」

「まじです!」


陽葵の応答に、要は驚嘆の声をあげた。

「じゃあラーメンの材料を買って、早く帰りましょう! あ、花火も忘れないでくださいね!」

「はいはい」

はしゃぐ陽葵は周囲の目を惹き付けながら、足取り軽やかに進みだした。

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