第24話:戯れ

「要くん、ゲームってまだありますか!?」

「あるけど……ちょっと待て」

まだかまだかと興奮する陽葵を背に、要はゲームソフトの入ったかごを漁っていた。


どうやらこの美少女は、初めて体験する電子ゲームという代物に、大変興味を持ったようだ。もし彼女が犬だったら、しっぽをブンブン振っていることだろう。

要が越してくる際に親に「持ってけ」と言われたソフトの数はかなりのもので、かごは片手で持ち上げるには重い。一世代前のものから最新のものまで、多種多様である。

複数あるかごの内手前から二つを取り出し、陽葵に尋ねた。


「この辺が最近のゲームソフトだな。適当に決めてくれ」

要はかごを陽葵の前に差し出し言った。陽葵は鑑定士のような目付きで、パッケージを一つずつ取り出している。


「ちなみにおすすめはこのバイオハザ」

「あ、それはいいです」

要が意地悪な笑みを浮かべて勧めたのは、大人気ホラーゲームだ。パッケージからその雰囲気を感じ取ったのか、真顔で首を振られていたが。


「これにします!」

吟味の末陽葵が掲げたのは、動物とスローライフを楽しむゲームだ。シリーズ八作目は無人島に移り住み、DIYが新要素として取り入れられている。


要の説明もそこそこに、カセットを入れ、ゲームを起動した。家にあるゲームは一通りやりこんであり、このゲームも例外ではない。島作りがメインコンテンツなのだが、もうクリアと言っても過言ではない程には出来上がっている。


(やることはほとんどないはずだけど……まあやらせてみるか)


黄色い声をあげる陽葵を、要は静かに見守ることにした。



「かなめく〜ん、このゲーム凄いですね! ひつじさんがいますよ! ちょちょまるですって!」

やることがなくすぐ飽きると思っていたのに、女の子という生き物は、動物のキャラクターと戯れるだけで十分楽しめるらしい。


中でもお気に入りのキャラはひつじのちょちょまるらしい。先ほどその辺で採れたリンゴをプレゼントしていた。動物と戯れているのだと考えると、なんだかほっこりしてしまう。


目を輝かせている陽葵の傍ら、要はその様子を見ながら読書に興じていた。この前から読もう読もうと思ってはいたのだが、どこかの姉が来たり勉強をしたりで、なかなか時間がとれなかったのだ。


視界の端にそれを捉えた陽葵が、「そういえば」とこぼした。

「要くん、このゲームは二人でできないんですか?」

要は読書の手を一度止め答える。

「一応できるけど……」

「それなら一緒にやりませんか? きっと二人でやった方が楽しいですよ!」

「……そうだな」

要は一瞬の思慮の後了承した。

今日は何より陽葵を優先すると決めていた要は開いたページにしおりを挟むと、本を置き椅子から腰を持ち上げた。陽葵の横に座り、コントローラーを譲り受ける。手早く操作を終え二人プレイに切り替えると、陽葵にコントローラーを返した。


「この地味な格好をしているのが要くんですか?」

「地味とか言うな。初期の格好だから仕方ないだろ」

「わたしが操作してる方はおめかししてますよ?」

「そりゃ買ったからな」

「洋服とかも買えるんですか!?」

「か、買えるぞ」


予想外の食いつきを見せる陽葵に、要は気圧されながら答えた。要を見つめる金茶色の目は、今日一番の輝きを見せている。


「服を買いに行きましょう! あっでもお金……」

「ああ、結構預けてあるはずだから、好きに使ってくれ」

「……要くん」

「なんだ? ATMの場所か?」

「いや、それはもう見つけたんですけど……わたしの目が間違ってなければ、六億円あるんですけど……」

「間違ってないぞ」

「えっ」


要と陽葵はそれぞれのキャラクターを操り、服屋に来ていた。といっても、ラインナップは日替わりなので、種類はあまり多くないが。

「服選びがそんなに楽しいかねぇ……俺このゲームで真面目に服選んだのって二、三回あるかないかだぞ」

「楽しいですよ! 別の自分になれてるみたいで!」

「……なるほど」


それから陽葵は六億という軍資金を元手に、ありとあらゆる服を買っていった。中には一つ百万円もするティアラや王冠などもあったのだが……


「品揃え悪いですね。ユ〇クロとかを見習ってほしいです」

「そんなこというなよ、仮にも舞台は無人島なんだから。カタログからなら好きなもの買えるはずだが」

「どこですか!?」


ギャーギャーと騒いでるうちに、いつの間にか日は傾き始めていた。

「あっ、もうこんな時間ですか! 夕飯の支度をしないと……」

窓越しに聞こえるからすの声を聞き、陽葵は現実に戻された。エプロンを着ようと立ち上がる。

「なぁ、陽葵」

「はい? なんですか?」


中腰でこちらを向き首を傾げるといった忙しい姿勢をしている陽葵に、要は声をかけた。


「……出前とろうぜ」

「今日の要くん、やっぱり変です!」


慣れない行動を実行している要の顔は、やはり引きった笑みを浮かべていた。

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