閑話:プリンの日

冬を感じさせるほど本格的な冷え込みをみせる日。要はいつものように参考書たちとにらめっこをしては唸っていた。


「榎本さ〜ん! お待たせしました!」

一息つこうかと考えた時、キッチンから元気な声が聞こえた。要の部屋に入り浸る女性なんて一人しかいない。神原陽葵のものだ。疲れたからと勉強を一時中断し、何かを作っていたようだ。

「はい、どうぞ!」

そう言われて差し出されたのは、一枚の皿に乗ったプリンだ。頂きのカラメル面の上には、ホイップクリームとさくらんぼが所狭しと鎮座している。まるでファミレスで出てくるデザートのようだ。


「ありがたいけど……なんでプリン?」

「さっきスマホを見たら、今日はプリンの日? らしいので!」

今日の日付は十一月二十五日。どこにもプリン要素など無いように見える。初めて日本にプリンが伝わったとか、そんなのだろうか……。


プリンの頂上を削りながら、要はスマホを取り出した。インターネットブラウザを開き、『プリンの日』の由来を調べる。


「えーっと……プリンを食べると思わずニッコリすることから、二十五とかけて十一月二十五日に制定……らしい」

「それ、別に十一月じゃなくてもよくないですか? 『いいプリンの日』ならまだしも」

「だよな、俺も同じこと思った」


陽葵はさくらんぼを食べながら眉尻を下げた。

「ありがとな。うまかった」

「どういたしまして……榎本さん、ほっぺにクリームついてますよ〜」

「まじか、どこだ?」

「とってあげます! じっとしててくださいね……」


すると陽葵は要の顔に手を伸ばし、右頬に付着したクリームを、すくい取った。指に移ったクリームを、そのまま自分の口に運ぶ。その様子を見て、要は激しく動揺した。


「えっ、神原……今の」

「へ? なんのことですか?」

「……いや、なんでもない」

その後、陽葵は何事も無かったかのように勉強を再開した。しかし、夕飯の時間になると自分のやったことを思い出したのか、真っ赤になってしばらく口を聞いてくれなかった。


「え、榎本さん……ごめんなさい」

「いや、もういいって。思い出すな」

「……はい」

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