閑話:いいツインテールの日
「こんばんは〜」
「こんばん……は?」
いつもの放課後。要はインターホンを鳴らした陽葵を出迎えに、玄関のドアを開けた。外はもう日が落ちてしまっていて、吹き込む風は肌寒い。
「どうしたんだ、その髪型」
「あ、ちょっと友達に改造されて……」
いつもはストレートロングの陽葵の髪型は、今日は左右でふたつに結えられていた。風にさらされて、ふわふわと揺れている。
要はいっぱいの食材で膨らんだ袋を受け取り、中に入るように促した。「ありがとうございます!」と言って、靴を脱いでいる。
陽葵が持ってきたものを一通り片付け終わると、今日あった出来事の話を聞く。
「それで、なんで突然ツインテールなんか……」
「あー、なんでもいいツインテールの日だとか!」
今日の日付は十一月二十二日。算用数字で書いた時に二十二がツインテールに見えるから「いいツインテールの日」なのだそうな。
改めて陽葵の髪型を見返す。手入れされた栗色の髪が両耳の少し上で留められていて、肩に乗っている髪には緩くウェーブがかかっている。いわゆるツーサイドアップという髪型だ。
「そのウェーブ? ってどうやってるんだ?」
「ヘアアイロンを使うんですよ! 榎本さんもやってみますか?」
「遠慮しとく。俺巻くほど髪長くないし」
陽葵はカバンからヘアアイロンを取り出してみせる、要は手を軽く持ち上げて断った。
「あっ、それなら榎本さんも髪結んでみましょうよ!」
「いやいい」
要の髪は男子の中では比較的長めだが、結ぶには長さも量も足らないだろう。それでも陽葵は食い下がる。
「大丈夫ですよ、頑張りますから! ほら、そこに座ってください!」
「いや俺は……わかった、わかったから髪引っ張るな」
要は渋々陽葵が指定した椅子に座った。髪を結ぶことなど初めての経験であるため、電気椅子に座らされた死刑囚の気分だ。
「それじゃあ、覚悟してくださいね……!」
――それから約五分後。
「できましたー!」
「…………」
陽葵はげんなりしている要に手鏡を差し出した。ぐったりとした手つきでそれを受け取り、自分の姿を見る。
「おい……なんだこれ?」
鏡に映っているのは、頭頂部付近が短く結ばれている己の像だ。やはり髪が足りなかったのか、それは角のようにも見える。陽葵は堪えきれないといった様子でクスクスと笑っている。
「……ぷっ」
「あっ、お前今笑っただろ!」
「わ、笑ってないですよ……あはは!」
「笑ってるじゃねえか!」
「ごめんなさーい! だって角みたいで!」
この陽葵の破顔は、この日彼女が帰るまで続いた。ちなみに要に隠れて写真に撮ってあるので、スマホのフォルダを見る度に思い出して笑うことになる。
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