第14話:体育の時間

日に日に夏らしくなる炎天下の下、要たちは体育の授業を行っていた。今はこの暑苦しいなか地面に座らされ、体育担任の長ったらしい話を聞いている最中である。


要や響の額にはまだ運動前であるにも関わらず、玉のような汗が浮かんでいる。こんなことなら水筒を持ってくるんだったと、遅まきながら後悔した。


「それじゃあ、各自気をつけて練習するように!」

教師はそう締めくくると、自分が担当する競技のところへ向かった。生徒達も次々に立ち上がり、それぞれ移動を始める。


「要。俺たちも行くぞ」

「はいはい」

要は響の腕を借りると、自分の競技の練習場へ向かった。


一週間後に控えた校内陸上競技大会は、一学期の大きなイベントの一つである。

一年生から三年生までの羽星高校の生徒全員が参加し、それぞれの種目で学年ごとの一位を争う大会だ。当然要たちも出場する。


要は特に陸上競技に思い入れがないので、響に合わせて百メートル走を選択した。一番無難なところだろう。


短距離グループのメニューは、ストレッチなどの体ほぐしから始まった。二人一組で行われるストレッチの中には柔軟などもあり、普段から運動をしない要には、きついものである。


「いてて……おい要、もうちょっと優しくだな」

「さっき俺も同じこと言ったぞ」

要はさっきのお返しとばかりに体重を乗せていくと、響は「悪かったって、ギブギブ」とタッチアップを始める。


短距離を担当している教師は若い人で、気をつける点と意識する点を手早く説明すると、「あとは自由時間」などと言って何もしなくなった。放任主義なのか、自由にやらせようとしているのか。


それからはクラスの代表というか陽キャ達が、タータンの前に列を作らせ、ひたすらトライアルをおこなっていった。この暑さなので、疲れた者から各自日陰で休憩をとるように、と強調している。担当教師もご満悦の表情だ。


「要、おまえはもうちょっと腕を振った方がいいと思うぞ?」

「了解。次から気をつける」


こんなやり取りを交えつつ、体育の時間は流れるように過ぎていった――




――「そういえば、もうすぐ陸上大会ですね」


その日の夜。陽葵は煮物をつつきながら、要の方をチラリと見た。


「榎本さんは、どの種目に出るんですか?」

「俺は百メートル走だな。響に誘われて」

「あ、わたしも百メートルです!」


「同じですね〜」とこぼした陽葵の顔は、どこかほっこりとした様子だ。俺は焼き魚をついばみ、続ける。


「でも響のやつ、やれフォームが悪いだの、腕をもっと振れだの指摘してくるんだよなぁ……そこまでだめか」


要は自嘲するようにに笑った。陽葵はなぜか悔しそうな顔をすると、一度箸を置き、立ち上がる。


「それなら、わたしが教えてあげましょう!」

「……ほう」

「陸上競技といえばわたしですよ! まあこの前、榎本さんには勉強を見てもらいましたし? これくらいならいいですよ!」


やけに上から目線で、陽葵は言った。陸上競技といえば陽葵なのかは知らないが、自信はかなりありそうだ。そういうことならたのんでみようと、要は胸を張っている陽葵に向けて口を開く。


「それならお願いするよ。ちゃんと教えられるんだろうな?」

「任せてください!」


陽葵は胸をポンっと叩くと再び座り、夕飯を食べ始めた。二人がスポーツ談義と洒落しゃれこんでいるうちに、金曜日の時間はあっという間に過ぎていった。

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