第11話 決着
うな垂れた様子のバーンドゥに言う。
「……安心しろ。俺が必ずその転生者と話をつけてやる」
「なに?どういう意味だ」
バーンドゥの表情が揺れる。俺は気を失いそうな痛みを必死に耐え、言葉を続けた。
「俺が王都に行って、お前に詫びを入れるよう説得してくる。同じ転生者なら、きっと話を聞くはずだ」
「……ふっ。そうはいかねえよ。お前はこんだけの事しでかしたんだ。殺さねえと」
「その後で殺せよ。どうせ俺も、こんな体で長生きできるとは思っちゃいない。必ず、お前の元に連れてくる。そいつには立場があるからな。猶更大人しく従うだろ」
食い気味に言うと、段々とバーンドゥの顔の皺が薄くなっていく。
「いや、まだダメだ。仮についてきたとしても、俺の生活が変わるわけじゃねえ」
「変わるさ。だって、そこでそいつは死ぬんだから。結局のところ、大衆は強い奴を見て安心したいんだ。当事者にはなりたくないが、でも誰かに与えられる事を待っている。勝った奴から与えられるラッキーを期待しているだけなんだよ。なら、次はお前がそういう甘い夢を見させてやればいいじゃねえか。今までだって、この山賊だって、そうやって支配して来たんだろ?」
「やめろ!絵空事を語るんじゃねえ!」
俺は頬を張られて横に吹っ飛ぶ。しかし、立ち上がって更に言葉を続けた。
「今更ビビってんじゃねえよ。俺をこの瞬間に殺さねえのは、お前だって何かを期待してるからじゃねえのかよ。だったら掴めよ。お前は、こんなボロボロの俺すら支配出来ねえのか?がっかりさせんじゃねえよ」
「それ以上言うな……。言うんじゃねえってんだァ!」
葛藤は更に葛藤を呼び、バーンドゥを惑わせる。酒が、甘い言葉が、恨みが。その全てが奴の弱い心を刺激して煽り、ついに顔を伏せた。
「言うさ。俺は、お前が天下を取った世界に興味がある。そんなぽっとでの奴に支配された世界なんて生きていたくねえよ。お前はどうなんだ?こんな捨てられた城で満足する男なのかよ。なあ!答えろよ!バーンドゥ!」」
「うがああああぁぁぁあぁぁああぁぁあ!!」
叫んで、奴は俺を蹴り上げた。飛んだ体は弧を描いて着地する。叩きつけられて、でも、ここで引くわけにはいかねえ。
「啓蒙、フロントガラス、樹液、渓谷」
俺は日本語でそういった。
「な、なに?何のことだ」
「魔法の呪文だ。実は俺も、その転生者と同じようにある力を持っている。こいつとお前の力があれば、その転生者を必ずぶち殺せる」
「嘘つくんじゃねえよ!だったらどうしてそんなボロボロなんだよ!」
「ちげえよ、バーンドゥ。使ったから
「お前……」
瞳が揺れる。こいつはもうまともじゃない。俺が誰の何でここに連れてこられたのかも、指摘出来ないのだから。
「信じろ。お前はここから成り上がるんだ」
「お……おぉ……」
バーンドゥは拝むように泣いた。俺はそんな彼の肩を叩くと、ふら付きながらも立ち上がって剣を拾う。その動作に気が付いているのだろうか。それとも俺を信じたのだろうか。自分の背後に立つ俺に見向きもしない。
「やろう。俺たち二人で」
「あ、あぁ!そうだ、お前の名前を教えてくれ!」
そう答えた彼のうなじに、俺は思いきり剣を突き刺した。
「な……っ、どう……。こはっ……」
更に俺はその剣の柄に全身の力を加え、背中を両断。刃が体に食い込むと腰の辺りで一度止まる。今度は柄を足で思いきり踏みつけ、地面にまでそれが届くとようやく全身を真っ二つに切り裂いた。
「悪いな」
しかし、彼はもう喋らない。音を立てて横たわると、最後に目だけを動かして俺を見てから、瞳孔を広げた。
その姿を見て、俺は深くため息をついた。その時、先程の離れから物音が聞こえた。
「ランス……」
「……どうした」
「下から来てるみたい。音が聞こえる」
タイラーたちが力尽きたのか、それとも山賊が追い付いてきたのか。まあ、そんなことはどっちでもいい。どちらにせよ、追いつかれたら殺される。全く、息つく暇もないな。
俺はバーンドゥの腰のナイフを拾い、腕を切り取って、それを喰った。
「お前も食うか?」
「……うん」
腕を渡すと、クラリスも腕にかじりつく。筋肉が付きすぎていて、肉質が固い。咀嚼するにも一苦労だが何とか飲み込む。味は、もうわからない。
腕の代わりに剣を捨てて、二人で歩き出す。馬車に乗れればよかったのだが、昨日の馬車は既に消えていた。……そういえば、薬師がいたんだったか。そいつを運び出すのに使ったのかもしれねえな。
「行こう」
北門を出て、そのまま真っすぐと道を進む。城の反対側とは打って変って、のどかな道だ。ここをまっすぐ行けば、きっとたどり着く。
しばらく歩いて川が見えた。水を飲み、傷を洗う。バーンドゥの腕を食い尽くすと、俺たちは夜も歩き続けた。
……次第に、クラリスの体が重くなる。
「傷……、また、増えちゃったね」
「そうだな」
「すごく……痛そう、だよ、大丈夫?」
「そんなわけあるかよ。でも、行かなきゃ」
「……ランスは、すごいね。どうして……そんなに……頑張れる……の?」
「どうしてだろうな。わかんねえ」
「そっか。……どう、して、……私を、連れて、行って……く、くれる、の?」
「……わかんねえ」
「……そっか。あり……がとう」
「あぁ」
「ね、ぇ、ラ……ン……ス」
「ん?」
「やっ……ぱり、あ……なた……は、私……た、ち、の……」
……。
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