第69話 王国視点

「なっ⁉ 相手がもう攻めてきただと⁉」

「数は⁉ 数はいかほどなのだ⁉」


 王国は再び混乱に陥っていた。

 宮廷では大臣たちが慌ただしく廊下を駆け回っていた。


「ふん……所詮ここで飼っていた小物が来るだけだろう」

「その通り。これだけの人工魔獣を前に何が出来ると……」


 余裕の表情で笑い合う王子二人。

 父である国王と宰相とともにテーブルを囲んでいた。


「ふむ……ハーベル、敵の戦力はわかっておるのか?」

「森に入られて正確な情報が入ってはおりませんな……。なんせ見聞きしてきた情報がどれも耳を疑うものばかりでして、敵はおそらく幻術使いがいるのではないかと処理しておりますが」


 ゴブリンを中心に万の大軍を抱えているなどという情報をそのまま報告するわけにもいかない宰相にとって、その判断はある種仕方のないものだった。


「私は直接見てきている。あんな僻地に万もいるものか。様子のおかしいゴブリンが多少まとまって行動していたにすぎん」

「というわけですので……脅威となるのはやはり連れ去られた魔物たちだけかと」


 その言葉に国王が笑みをこぼした次の瞬間だった。


「敵の数、およそ五千! 全員武装を整えており、民兵ではなく軍として動いております!」

「ドラゴン複数匹確認! その他、魔獣多数!」

「斥候部隊消失! これで五件目です……」

「何だとっ⁉」


 国王がつい立ち上がる。

 王子たちにはにわかに信じられなかった。


「五千だと? 馬鹿げている。どこにそんな人員がいたというのだ」

「その通り。いくら王都がこんな状態であったとはいえ、王都から抜けた人間が五千も揃うなどあり得ないことです」


 アルンもロキシスも、ユキアの能力など飼育係の中ではマシだった程度の認識しかしていない。

 ミリアに対してそうであったように、テイムやテイマーに対する理解など、する気もなかったのだ。

 だから気づかない。

 一体一体がもはや、人間の力を大きく上回る亜人の集団を率いてきたということに。

 ユキアのもとに集った魔獣たちがどれほどの力を得ているかに。

 そして……。


「おいおい……あっちには神獣もいるんだろ⁉ どうなっちまうんだ俺たち……」

「神獣だと? 何を馬鹿げたことを……」

「やはり敵には幻術使いがいるようですねぇ」


 王子たちの言葉に宰相ハーベルが冷や汗をかきながら応える。


「いや……神獣は、いるのです」

「なに……?」


 すでにユキアたちの軍勢は目と鼻の先に迫っていた。

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