第66話決定打
犯人の目星が付くまでに、そう時間はかからなかった。
あのあとすぐに、一匹、俺がよく見知った魔物の姿が目に入ったことから発覚につながることになる。
「ラトル! どうしてお前が……」
王宮でずっと、檻に繋がれていた狼型の巨大な魔物だった。
戦争の間だけ暴れさせることを役目に持ち、普段は人への敵意を高めるためという名目で飼育係たちからも散々な目にあった魔物。
当然俺がミリアとともに王宮にいた魔物たちを連れ帰ったときには、すでに人間に嫌気がさしていなくなったものと思っていた。
そのラトルが、致命的なダメージを背負った状態で倒れ込んでいたのだ。
「クゥン……」
弱りきったラトルに、王宮にいた頃からずっと、何もしてやれなかった後悔の念が募る。
「ラトル……ごめん、俺はあの時から、何も出来なくて……」
そう言って寄り添うと、慰めるようにラトルが俺を舐めた。
口が大きすぎてほとんど顔全部を舐められるような状況だった。
「エリン……治す気か?」
後ろからレイリックの声が聞こえる。
「治せるのかっ⁉」
「ああ……だがそんなに万能なものではない」
「どういう……って、エリン⁉」
確認するまでもなかった。回復魔法を唱えながら手をかざすエリンの額には、大量の汗が滲んでいたのだ。その表情も苦しそうに歪んでいる。
「エリンは巫女のような役割を担っていてな。エルフは無限の寿命がある。その寿命を使って、対象の傷を肩代わりすることができる」
「それは……」
目の前に横たわるのは俺達の何倍もの巨体の狼。
その腹にぽっかりと穴があき、それ以上血も出ないほどのダメージを受けた相手にそんなことをすれば……。
「カハッ……はぁ……はぁ……これで、命はつながるはず……です……」
「シャナル、エリンをすぐに」
「わかっています!」
倒れかけたエリンを、シャナルが抱きとめて回復薬を飲ませる。
エリンには申し訳ないが、俺はこいつに寄り添ってやらないといけない。
「なにか感じるものがあったんであろう。こやつには……」
「ああ。俺が王宮にいた頃から、何も出来なかった相手だ」
「何も……か。そうは見えんがな」
レイリックの言葉に驚いていると、ラトルがゆっくり立ち上がる。
「まだ治りきってないけど……ここでは休めないか……?」
「そうではないだろう。お前は便利なスキルのせいで目が曇っているのではないか?」
「え……?」
立ち上がったラトルが、ゆっくり俺に寄り添ってきたのだ。
「クゥン……」
「動物と心通わせる力などない私でも、その姿を見れば何を考えているかくらいわかるがな」
「でも、俺はこいつに……」
「その子は……その……あぅ……ユキアさんが……はぁ……きっと……好き、な……はずです」
「エリン。無理して起きたら……」
起き上がったエリンを支えるように、ラトルがスッと身体を入れる。
「もう、大丈夫……あう……です。それより、この子のことを……ユキアさんのことを嫌いなはずがありません」
「クゥウウウン」
エリンの言葉に同意するようにラトルが鳴く。
そうか……。
王宮でのラトルの日々はひどいものだと思っていた。だからこそ、毎日気にかけていたのは事実だ。
だが俺は気にかけるだけで、こいつを救い出す事はできなかったと思っていたんだが……。
「許してくれるのか?」
「キュウン」
ペロペロと、顔を舐めて頭を擦り寄せるラトル。
「そうか……」
胸の奥が熱くなるのを感じる。
だが一息つく間もなく……。
「これは……まさか、そんな……」
「ミリア……?」
遅れてやってきたミリアが震えている。
もう周囲に敵影はないというのに、まるで目の前になにか強大な相手がいるかのように、顔を青白くさせてガクガクと身体を震わせていたのだ。
「この傷跡……兄様の……」
「――⁉」
つまりこれは……。
「ユキア」
「ああ……」
レイリックが声をかけてきた理由はわかる。
戦争になるのだ。
「同盟国としてエルフの部隊を……」
「いや、エルフやドワーフは戦いの前線に出さない」
「ほう……?」
「この領地も傷つけさせはしない。こちらから攻め込む」
もう王国に容赦はしない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます