第65話二人の王子【王国視点】

「招集に応じ馳せ参じました」

「うむ……」


 ゼーレス王国王城、玉座の間に、二人の男が招集されていた。

 一人は次期国王となるであろう第一王子アルン=ウィル=ゼーレス。


「ですが父上、ひどい有様ですね」

「ぐっ……」

「ああいえ、出過ぎた真似を。して、聞いた話によるとこの惨状、一介の飼育員ごときによるものとか?」


 口調こそギリギリの敬意を示したようなものだが、その声音に敬意など全く込められた様子がない。

 とはいえ国に残った国王や宰相を始めとする大臣は何も言い返せない。実際にそのとおりだったから。

 そしてそれ以上にアルンの持つオーラに気圧されていたのだ。


 アルンは魔法、学力、武術、どれをとっても優れた才能を発揮したまさに天才神童だった。

 当然成人し、次期国王として準備をすすめる今もなお、その力は健在だ。

 すでに並の騎士団員や武人では相手にならないほどの物理的な力も持っていることもあって、誰も何も言えないのだ。


「まあまあ兄上、そのくらいで」


 場を収めたのはこちらも招集されてやってきた第二王子、ロキシス=ウィル=ゼーレスだった。

 丸メガネを持ち上げながらロキシスは続ける。


「ご心配なく国王陛下。もはやあのレインフォース家が必要なくなるのは時間の問題でしたが……完成しましたよ」

「おおっ! そうか! でかしたぞロキシス!」


 国王が思わず玉座から立ち上がる。

 ロキシスは王都から離れた領地で魔獣の研究を任されていた。研究の目的は、王国の主戦力となっていた魔物たちの量産、強化だった。


「ここへ来たのも私が作った人工竜です。乗り心地はいかがでしたかな? 兄上」

「レインフォースが管理していたあれよりは速く、強かったな」

「おお! おおそうか! もう騎乗も済ませたのだな!」


 国王の目が輝くのを周囲の人間は久しぶりに見た。

 国の誇る戦力が失われた今、実力ある竜騎士と、竜の存在は心の拠り所になるほどの価値があった。


「これでしばらくの防衛は安泰か……」


 ホッと息をつく国王に対して、王子たちの意思は異なっていた。


「父上、一介の飼育員にいいようにされたままで済ませるおつもりで?」

「ぐぬ……だが相手は強大な……」

「ここに来る前に少しばかり味見をしましたが、大した歯ごたえもない相手でした」

「なにっ!? すでに刃を交えたのか!?」


 ざわめき立つ大臣たち。

 実際にユキアの、正確にはあの霊亀の姿をみていた者たちにとってみれば、それは信じられない愚行だったからだ。

 だが第一王子の言は逆に、あの時大臣たちが失っていた自信を取り戻すものでもあった。


「交えるというほどのこともありませんでした。通り道に様子を見ただけ。多少でかい魔物はおりましたが、本当に大したこともありませんでした」

「なにっ! あの魔物とも対峙したのか」

「ええ。逃しはしましたが致命傷は与えてあります」

「おお!」


 国王をはじめ、大臣たちも一様に表情を明るくする。

 もっともこのとき、第一王子の言ったでかい魔物と、大臣たちが想像するそれには大きく隔たりがあったのだが、それに気付くものはこの場にはいなかった。


「我が国の失われた戦力を正式に取り戻すのです」

「この国にもともといた程度の戦力なら、二倍でも三倍でも作ってきましょう」


 第一王子、第二王子はともに、ユキアたちとの戦いを選んだ。

 その熱は、王国に残り沈んでいた貴族たちの心に今一度火を灯す。

 もっとも、その火が自らを焼き尽くすものであると気付くものは、この場には一人もいない様子だった。

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