第61話 ドワーフの国③

「キュエエエエエェエエエエエエエ」


 甲高い鳴き声が山岳を地面ごと震わせる。


「もう怒り狂ってるな……」

「この位置からいけるか?」

「いや……無理だろうな……」


 視認できる位置までは来たといえど、そもそも相手にとって見ればこちらは人から見た虫かなにかのようなものだ。

 存在の格が違いすぎる。


「まずは近くに行って認識してもらうところからだな」

「意外と大変だな、【テイム】というのも」

「まあ何もかも上手いこと行くスキルというわけではないのは確かだな」


 レイリックにはこの辺り、早く覚えてもらわないとこれから先も無茶振りが続く気がする……。

 いや神獣二体でもう打ち止めになって欲しいところだが……。


「近づくだけで困難だな……」

「エルフって暑さには強いのか?」

「私は一応ハイエルフだからな。環境へは自然と適応するが……あの火の粉が降りかかればダメージは受ける」

「なるほど」


 それでなくても火山地帯だというのに、鳳凰の身体からは常に炎が吹き出し、火の粉は眼前まで迫ってきているのだ。

 霊亀の権能がなければもうリタイアしていただろうな。


「便利な力だな」

「キュルー!」


 上機嫌な精霊体の霊亀が俺の周囲を泳ぐように飛ぶ。

 俺の周囲にはシールドが常に展開されているような状況で、霊亀が耐えられる範囲であればフルオートでガードが発動するという状況だった。

 霊亀は四獣の中でも防御に特化した能力を持っていたはずだ。相手が鳳凰であってもまあ何とかなるんだろう。



「キュルル?」

「頼むぞ」


 気楽そうな姿が何も考えていないからだとは思わないようにしよう。



「さて、いよいよ向こうさんもこちらに気付きそうだな?」

「ああ……」


 いよいよ、鳳凰と対峙した。


 ◇


「何とかなりそうか?」


 鳳凰と対峙した俺にレイリックが問いかける。

 結論から言えば問題はないんだが……。


「この件、どうも人間のせいだ」

「何だと? ここは人が住む場所からは遠く離れているぞ?」

「ああ。だがここに来た人間がいたらしい。それも、神獣の力の悪用を求めて……」


 犯人はわからない。

 だがこの地に人間がやってきて、神獣の権能を奪い取ろうとしたらしい。

 これを防ぐために鳳凰は暴れ、周囲の精霊たちもその影響を受けてドワーフに扱いきれないものになったというのが真相らしい。


「で、人間のお前を認めるのか? 鳳凰は」

「なんとか頑張るよ」


 鳳凰の怒りは何も人間の種族全体に及んだわけではない。

 厄介事にクビを突っ込むことにはなるが、鳳凰の協力が得られるなら……。


「俺がお前にちょっかいをかけた人間のことを、なんとかする」


 その言葉に応えるように、それまでの空を覆うほどの巨鳥は、霊亀同様小さな精霊としてこちらのほうに飛び立ってくる。


「クエー」

「キュル」


 そのまま鳳凰が霊亀と戯れ始める。

 霊亀が尾の先に宝石のようなものを付けているのに対して、鳳凰は額に埋め込まれるようになにかの宝石のようなものがきらめいていた。


「終わってみるとあっさりだな」


 レイリックが言う。

 俺からすると精神的にかなり疲れるんだが……。

 その言葉を聞いて、次からもう少し苦労した様子を見せようと心に誓った。


「それにしても……」


 レイリックが二匹を眺めて言う。


「見た目はこんな形になっても、力は一切衰えぬな……」

「まあ力を奪う契約じゃないしな」

「やはり便利な能力だな」


 何もかもわかっているような顔でそう言って笑うレイリック。

 俺はもう何も言えなかった。


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