第54話 出発前②【ミリア視点】
「パートナー、という意識はなさそうでしたもんね」
「はい。部下とかそういうのとも違いますし……どちらかというとなんでしょう……子どものように接するので、その子もそうですし、今回新たにテイムした子たちも、私たちがテイムを上書きしても巣立った、くらいにしか思わないんじゃないかと」
子ども扱いは言い得て妙だと思う。
普通のテイマーはテイムした従魔はパートナーであり、ある種の所有物だ。だがユキア殿には所有物という感覚はまるでなく、よくも悪くもテイムされた従魔とは一定の距離があるように見えていた。
「まあ、兄さんのテイムの能力に対して応えきれる相手がいなかったんでしょうけど……あの霊亀がそうなってくれれば良いんですが、兄さんならあの子ですら私たちが上書きしたいと申し出れば譲る気がしますね……」
「それは……」
ないとは言い切れないのがユキア殿だった。
そもそもあんなオーラを放つ魔物を涼しい顔でテイムしているユキア殿が異常なだけで、譲ると言われたってあんな大物をテイムできる人を私は知らないけれど……。
「まあですから、兄さんのことは気にしないで大丈夫です」
「お気遣いありがとうございます」
シャナルさんは本当に気配り上手な良い子だった。
歳も近くて何度も助けられてきた。
「必ず協力を取り付けてきます」
今度は私がシャナルさんに、この領地に貢献したい。
「無理はしないでくださいね」
そう言うと普段の真っ直ぐこちらを見据えていた綺麗な青い目を少し逸らす。
らしくないなと思っていると、シャナルさんがこう続けた。
「ミリアさんは私にとって……その……大切な方になっていますから」
「――っ!」
ドクンと心臓が跳ねた音が聞こえた気がした。
そのくらいシャナルさんの言葉と、その仕草は、同性の私から見ても可愛らしいものだったから。
レインフォース家は魔物だけじゃなく人たらしの才能も全員身につけているのだろうか……。
「心配はかけないようにしますね」
パトラに鞍を取り付け乗り込みながら答える。
私も真っ直ぐ顔を見て答える余裕はなかった。
「ロビンさんも乗ってください」
「良いのですかな? 私は走って追いかけても良いのですが」
竜を走って追いかける……?
出来るかどうか聞こうとしたが答えを聞くのが怖くなったのでやめておいた。
「大丈夫です。」
「では、お言葉に甘えて」
次の瞬間にはさっとパトラの背まで軽々と飛び乗ってくるロビンさんに驚かされながら、私は領地を旅立つことになった。
「あれ……? 私って人質だったはずでは……」
「そのような些細なことを気にするお方はあの地におりませんよ」
「……そうですか」
もはや王国の常識で生きるのは馬鹿らしくなるロビンさんの言葉に勇気づけられながら、文献の記憶を頼りにパトラと空の旅を楽しんだ。
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