第52話 方針転換【ミリア視点】

「方針を変更します」

「方針……?」

「はい。ユキア殿のテイムした魔物を進化させて監督にするというのは私にはレベルが高すぎます。なので最初からそれができる相手をこちらに呼び込むことにしましょう」

「そんなことが……? 王国から人を雇うのですか?」

「いえ、呼び込むのは魔物です」


そうだ。

ユキア殿と同じことをやっても仕方ない。

だったら私も私にできることをするべきだろう。


「これでも一応王族の端くれだったので禁書扱いされてきた文献にも目を通す機会が得られたんです。そこに一つ、使えそうな知識があります」

「それって私も聞いて良いんでしょうか」

「ここまで言ってだめとは言いませんよ」


文献に記されているのは王国の周囲の真の地図だ。

エルフ、ドワーフ、聖獣など、もはや幻獣として扱われた彼らのことを記した書物があった。

そこには彼らの住処が事細かに記されているのだ。


エルフは実際に会ってわかった。

そしてユキア殿がドワーフを目指して旅立った方向から、ドワーフの住処にも裏付けが取れている。


あれは本物だ。


「鬼人か竜人に交渉を持ちかけます」

「鬼人……竜人……どちらも伝説上の生き物では……?」

「エルフだって似たようなものです。どちらかはいるはずです」


そしてその場所も、地図によればそう遠くはないのだ。


「むしろ接触しておいたほうが良い相手かもしれません」

「それは……?」

「エルフの王が直々にやってきたくらい、ここは周囲の者にとってイレギュラーな存在ですから……」


鬼人も竜人もあの文献の通りだとすればエルフ以上に好戦的なのだ。

いきなり武力行使ということもありうると考えれば、先んじて外交を進めておくのは国として必要な措置になる。


「なるほど。ですが外交、と言ってもどのように話をまとめるのですか?」

「鬼人であれば意外と話は早いかと思います。彼らは手先が器用ではないので、文化的工芸品は新たに生み出せない貴重な財産として扱われていると聞きました。私がここに来るときに持ち込んだ装飾品類だけでもそれなりの交渉ができるかと」


すると、私の言葉を聞いたシャナルさんが申し訳なさそうにこんなことを言う。


「良いのですか?」

「もちろん。ここで使わなければ文字通り宝の持ち腐れになってしまいますよ」


躊躇いはなかった。

国宝級のアクセサリーもあったが正直使い所がないものを持っていても仕方ない。

鬼人を味方につけられるなら、いやそれ以上に、レインフォース家に……ユキアさんに貢献できると考えれば安いものだった。


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