第46話 王族【ミリア視点】

 歳の離れた兄や姉は、私にとってあまり良い思い出のある相手ではなかった。


「王家の者が魔獣の世話係だと? そのような雑務、あの給金泥棒のレインフォースにやらせておけば良いだろう」


 長兄の第一王子、アルンお兄様は明確に自分以外のものを見下していた

 次期国王としての威厳を保つため、というより、私には何かに怯えているように見えていた。


「その通りですミリア。王家の者がそのような汚れ仕事をするものではありません」


 第一王女、長女アリアお姉様。

 姉さんもアルン兄さんと同じく、他者を見下して自由に生きていた。

 言うことを聞くのは父と兄だけ。

 私のことはアクセサリーか何かと思っていただろう。


「そもそもこの国にテイマーなんてもの、もう必要ないんだ。無駄なことはやめるべきだよ、ミリア」


 第二王子、ロクシスお兄様。

 神経質な性格で部屋に閉じこもって何かの研究をしているようだった。

 やつれた顔と眼鏡の奥に濃いクマを作って私によくそう話していた。


「そもそもミリアが無駄だったかもしれないけどね」


 笑いながらそんなことを言っていたのは第三王子、ギリアお兄様。

 兄姉たちには絶対に逆らわないが、その分私をこうしていじめてくる兄だった。


 それでも私はテイマーに憧れた。

 動物たちと話すのが楽しかった。

 動物たちと懸命に対話し、彼らを支えるレインフォース卿が輝いて見えたのだ。


 兄姉たちはテイムにこだわる私に苛立ちを見せはじめる。

 言うことを聞かない末妹に罵詈雑言を吐く王子王女たち。いつしかそれは王宮内に伝播し、王宮に出入りする貴族たちにまで私は口悪く罵られることになる。

 兄姉たちはいつの間にか王宮を離れ、各地で要職に就いていた。

 だがすでに王宮には私を庇う人間はどこにもいなかった。


「出来損ないの王女様だぞ」

「おいおいまた無駄飯食らいのレインフォースと一緒にいるぜ」

「あの二人がいなくなってくれりゃこの王宮も少しは空気がマシなんだけどな」

「ぎゃはは。違いねー!」


 そんな声をレインフォース卿は相手にすることなく、ただひたむきに動物たちに向き合っていた。

 テイマーだから、いやこの王宮でレインフォース卿の他では唯一彼らと向き合ったからこそわかる。レインフォースなしにこの国の軍事力は維持できない。


 だと言うのに……。


「ユキア様を解任した上国外に追放など……正気ですか⁉」

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