第45話 レイリックの考え2
レイリックの考えはこうだ。
「我が国から人を連れてこよう。狩猟、農作、用兵あたりならうちの人材でもひとまずは良かろう」
「それ、そっちにメリットはあるのか?」
「もちろんある。エルフは寿命が無駄に長い。そのせいで世代交代が起こらんのだ。だが優秀な人材は持て余している。一度責任ある立場に就かせるというのはこちらにとって大きなメリットだ」
なるほど。
人間よりその辺りの問題は深刻か。
貴族たちもポストが空くまで優秀でも役職が与えられない者は多くいた。
「まあとはいえ、これは最初だけの応急処置のようなものだ。こちらが派遣するエルフたちにも忖度する必要はないから優秀な者が現れればユキアが随時トップを入れ替えていけば良い。王としてその任命権だけは握っておき、あとのことは部下に任せる。理想的な国になろう」
「責任重大だな……」
理想的なのは王の人を見る目が優秀だったときだけだ。
俺にできるのはテイムであって人を見ることではないんだが……。
「そのために私がいると思えば良い。あとは信頼できるものを育てよ。王家の血筋の者も連れてきたのだし、エリンも主張は少ないが相手を見る目はあろう」
「なるほど」
そこも含めて任せていくと考えればいくらか気が楽か。
俺はあくまでテイマーとしてやっていきたいしな。
「さて、その上で一つ、私から提案だ」
「提案?」
「ああ。エルフが担えない分野に関して、人材を確保するのにちょうどよい相手がいる」
エルフが担えない分野……。
さっき言ってたのは狩猟、農作、用兵……生きていくための部分と領地の守備という意味で最低限必須だったが……いま欲しいのは……。
「土木工事か」
「そうだな。エルフは木々を操ってそこに住むからな。土木工事の概念がない」
そうか。
世界樹の中に居住区を作っていたあたり色々考え方が違うだろう。
ここでそれを再現しても合うものも合わないものも出てしまう。
「工事をやらせるならうってつけの者たちがおる。そこに話をつけにいこうではないか」
「うってつけ……」
「ドワーフだ」
ドワーフ。
エルフと並んで人間にとってはもう幻の存在なんだが……。
「大陸最高の鍛冶技術もある。この国にはどのみち必要になる存在だ」
「簡単に言うけど俺は物語の中でしか見たことない相手だぞ」
「なに。我々にとっては同盟国の一つにすぎん」
そう言ってレイリックは早速乗っていたドラゴンのもとに向かっていく。
もしかするとムルトさんから逃げるために……いやまぁやってることはこちらとしてもありがたいことだ。
大人しく従おう。
「あっ! 兄さん、もうどこかに行くんですか?」
ドラゴンの準備をしているとシャナルが声をかけてくる。
「ああ。悪いけど留守を頼む」
「もう……もう少し落ち着いてほしいんですが……ここも色々あるんですよ?」
「シャナルを信用してるから任せるよ」
「……もうっ!」
甘えっぱなしで申し訳ないがシャナルに頼るしかないという事情もある。
領地の様子を見る限りおそらくだがムルトさんあたりが手を回してくれたこともあり、このまま任せても問題なさそうだった。
というより俺がいたところで領地運営なんてわからないんだ。できればシャナルやエリン、アドリ、そしてミリアに頑張ってもらえると、俺はこの先も楽ができるかもしれない。
「行くぞ。ユキア」
「ああ」
いや、楽になることはないか……。
俺は俺でやることが増えていくだろうしな。
だがその忙しさが充実感になっていて、ワクワクしかしていないことに自分でも驚いていた。
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