第47話 王女の決意【ミリア視点】
「落ち着くのだミリア。お主はたしかに【テイム】の心得もありあの者になにかの親近感を抱いておったかもしれぬが、実際にいなくなってなにも起きぬのだ。そもそもお主も言っておったではないか。一人のテイマーが抱える生物の量には限界があると」
「そう言いました! だからこそレインフォース家がこのゼーレス王国には必要であるとも!」
私の必死の訴えももはや、父には届かない。
だが諦めれば国が滅ぶ。懸命に父を説得しようとした。
「お父様。考え直してください。レインフォース家の加護がなくなればたちまちこの国は滅びます!」
「くどいぞミリア。いま、何も起きておらんことが何よりもの証拠ではないか」
「違うのです! 【テイム】はすでに段階的に効果が失われていっております。【テイム】のない魔獣や竜を相手に操れるような人間がこの王宮におりますかっ⁉」
「それは……だが飼育係がいるであろう」
「あれが最低限の仕事しかしていないのはご存知では……? ユキア様が出られて以降、まともに飼育係が世話をしているところなど──」
けど、私に出来たのはそこまでだった。
「おやおや……王女様は我が息子の仕事ぶりにはご不満でしたか……申し訳ありませんなぁ」
マインス卿……。
レインフォース卿を……ユキア殿を追い出し、その地位に息子を置いたことはわかっている。
だがその息子のエイレンが致命的に無能なのだ。
飼育係でありながら世話をしないどころか飼育対象に危害を加えストレスの捌け口にする始末。うまくいかないことはすべてユキア殿に押し付け、父の威光だけで王宮に籍を置く壊滅的な人間だった。
私からすればこの親子をこそ国外追放するべきだったのだ。
だというのに……。
「先祖代々莫大な報酬を国庫から奪い取り続けていた……もはやあれは害虫。姫様もはやく、目を覚まされることをおすすめいたします。それともすでに姫様が【テイム】でもされておりましたかな?」
「下衆がっ!」
こんな言葉を目の前で王女であり娘である私がかけられたというのに、父は、いや王は何もしない。
「私だけでも……なんとか……」
必死に頭を働かせる。
国に起こる危機は決定的。
そこにテイマーとして歴代でも稀に見るほどの絶大な力をもったユキア殿はもういないのだ。
「国が崩壊する……」
なんとかユキア殿に手紙を出すことだけは達成した。
この危機的状況を救えるのはやはりユキア殿だけだ。
『これだけの戦力を相手に対抗できる騎士団など我が王国は持ちません。
ですがユキアさんならば、王宮の危機を救うことが出来るはずです。
いえユキアさんならば被害も出さずに解決できるかもしれませんが……被害は出してください。
報いを受けるべき人間が報いを受けたのち、ユキアさんが王国を救うのです。
そうすれば流石の父も待遇を改めるはず……ユキアさんに対する不当な扱いを改め迎え入れるはずです……!
どうか、身勝手な願いですが王国をお救いください。
どうか……』
王女としては明らかにアウト。
だが共にテイマーとして語ったユキア殿に願い出るにあたって、この程度は申し出なければならないと思った。
そして何よりここで元凶を取り除かねば何度も同じ過ちが起きると思ったのだ。
「あれ……?」
ふと、そこで私にある考えが浮かんだ。
「そうか。崩壊しても……いや崩壊した方がいい」
頭が冷えて、その分冴えてきたのがわかる。
そうだ。私は生まれた時から無能と、役立たずと罵られて王宮に居場所などない。
この国が崩壊して困ることなどないのだ。
「国が滅べば王族である私も死ぬかもしれない……でも……」
それでも良いと、そう思った。
これまでの人生を振り返って、生きながらえたいなどとは思わなかった。
ただ、今国が崩壊すれば、その引き金を引くのがユキア殿であれば……話は変わる。
「国を捨てて、ユキア殿に食らいつく……」
それが生きる唯一の道筋だ。
そうでなければ死んでも良い。
「そうだ。王女だなんだと関係ないのだ」
王宮で孤立した私の相手をしてくれたのは唯一ユキア殿なのだ。
そのユキア殿に報いることが重要だ。
「テイマーとして、自由に生きたい」
国が壊滅寸前だと気づいて初めて、自分のやりたいことが明確に見えた。
もっともこの時点で国の崩壊を予期できていたのは王宮では私だけだったようだが……。
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