第37話 出来損ないの使者2

「くそっ! 僕は王国の使者だぞ! こんなことをしてただで済むと思っているのか!」

「逆に言うけどエレイン、もう少し王国を背負って来た自覚を持ってくれ……ここで好き勝手して困るのはお前だけじゃすまないぞ」

「テイマーの分際で偉そうにしやがって! もうお前は追放された落ちこぼれ! こちらは次期大臣候補の息子なんだぞ!」


 大臣候補……?

 まあ今はもう良いか……。どうしたものかと思っていたらレイリックが冷たくこう言い放った。


「ユキアがそちらの国でどのような扱いかは知らぬが、ここはもうユキアの国、そしてこの国は、我がユグドルと同盟を結ぶ友好国だ。お前は今二人の王の前で喚いているのだぞ?」

「え……?」


 ようやくエレインの勢いがおさまった。

 いやそれも一瞬でしかなかった……。


「だ、だが! 貴様のせいで国はとんでもないことになっているんだ! その責任は……」

「とんでもないこと……?」

「白々しいぞ! お前のせいで使い魔たちは言うことを聞かず暴走している! もっとも今頃は優秀な騎士団に鎮圧されているだろうがな。お前の国家への反逆などその程度だ!」


 反逆……?

 エレインの話は若干よくわからないが……おそらく言った通りろくな世話をしなかったことで魔物を始め従魔たちが暴走したのだろう。

 その責任をなすりつけにきたというところか。


「今回の被害額の補填はもちろん、お前の首では足りん! そこでだ、さっきの美しい娘を差し出せばこの私が便宜を図って……ひっ……」


 途中でレイリックの圧力に耐え切れず声を裏返らせるエレイン。

 だがなるほど……。

 おおよそエレインが来た理由はわかった。


「どうしますか? 兄さん」


 シャナルが心配そうに俺の顔を覗き込む。


「ふん……こんな小物の戯言に付き合う必要はなかろう。使者の首を落として返送すれば勝手に向こうは崩壊するのではないか?」

「ひぃ……」


 レイリックがそう告げる。

 そこに来てようやく身の危険を感じたエレインが身を縮こませる。

 敵地に一人で乗り込んできている自覚がなかったんだな……。


「確かに放置すれば勝手に崩れるかもしれないけど……世話していた子たちが気になる」

「助けるのは人でなく従魔か。らしいな」

「そうかもね……まああとは、一応生まれ故郷だから」


 レイリックは笑うだけだった。


「では兄さんは、国に戻るんですね」

「一旦ね。使い魔たちを連れて帰ってくるさ」

「誰か共に……」

「いや、必要なかろう。霊亀を連れた男に手出しなど出来んだろうに」


 レイリックが笑う。

 まあ正直霊亀がいれば王国が国を挙げて襲ってきたところで返り討ちではあるな……。


「だが、俺は付いて行くがな」

「お兄様……ムルト爺にまた怒られますよ」

「知らぬ。もう怒られることだらけなのだ、一つ増えたところで変わりはせん」

「……はぁ……」


 エリンがため息をついていた。

 まあただレイリックの言うこともわからないではない。霊亀の件ですでにむちゃくちゃやってるのだから今更だなという部分には同意だった。


「よし。エレイン。行くぞ」

「くそっ! 覚悟しておけ……! 国につけばお前には──」

「やはり首は落としておいた方が良いか?」

「ひぃ……」


 レイリックの声でエレインがまた怯えたっきり震えて動けなくなっていた。

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