第35話 霊亀②
俺は正直神獣を舐めていたかもしれない。
霊亀に契約を持ちかけた途端、頭が割れるほどの情報を流し込まれたのだ。
それは拒絶ですらない──単純な条件掲示だったにもかかわらず、こちらの体力を大いに奪い取った。
「はぁ……はぁ……悪い、ちょっと休ませてくれ……」
「ああ……」
立っていることもできずその場にしゃがみ込む。
霊亀は何をするでもなくただこちらを横目に眺めていた。
「一体何が……」
すぐそばに寄り添ってくれたレイリックに回復薬をもらいながら頭を整理していく。
流し込まれたのは霊亀が生きてきた何万年もの歴史だった。全てを脳が処理するのは諦めたおかげで俺の頭は守られたが、その分、断片的な情報だけが残っている。
霊亀は神獣としての生を受け、基本的にはそこに生まれた生物たちを見守る立場にあったという。
他の神々に比べればかなりこちら側、亜人を含む人類側の存在だった。だが文明を興した人類や亜人たちは活動領域を広げ、ついに神獣たちと活動領域が重なる。そうなった時に霊亀はその巨躯を敵視されるに至り、霊亀はそれを受けて引き下がったがもはや移動すらも文明を興した亜人たちには甚大な被害をもたらしていた。
結果的に最も活動領域が重なり、また魔力に長け封印する術を持っていたエルフがこれを封印した。
普通ならエルフに対して思うところがあるはずだが、霊亀から流れ込んできた感情にそういったものはなかった。
霊亀の望みはここに至ってもこちらに歩みよるものだった。
「何か必要なことはあるか?」
「いや、これなら俺がなんとか出来そうだ」
霊亀の望みはひとつ。
「俺ならその願い、叶えてやれる。お前がもう歩くだけで迷惑をかけない姿を取らせる。テイムの恩恵でお前を【精霊化】させる」
初めて霊亀がこちらを向いた。
「【テイム】」
こちらからの条件は霊亀を【精霊化】すること。これはもともと考えていたことだった。
そもそも霊亀を常に連れ歩くことなど出来るはずもないし、ここから領地に連れていくだけで森は破壊され尽くすのだ。
神獣クラスの相手なら【テイム】の恩恵で存在の格を引き上げることは容易い。いや実際にはその格をもっていながら、手段がなかっただけだ。
ゴブリンがホブゴブリンになったように、関係と同時に存在に干渉できるのが【テイム】。
霊亀の回答は──
「グォオオオオオオオオオオオオオ」
ダンジョンが崩壊するかと思うほどの咆哮で受け入れてくれた。
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