第34話 霊亀①
ダンジョンの攻略を進め始めて数日経った。
「追っ手もないものか」
「言ったであろう? 精鋭を集めたとてあんなにスムーズには追いかけられぬ。それに誰を行かせるか選んでいるうちに我々の攻略が終わるであろうよ」
「つくづくエルフってこう……」
「悠長で怠惰だ。私がせっかちという者は多いがな」
人間たちが生き急ぎすぎているとも言えなくはないが、自分のやりたいことに関してはエルフに比べれば格段早いスパンでチャレンジできるのは良いことかもしれない。
地下へ地下へと潜っていくだけの比較的狭く単調なダンジョンだったが、レイリックとの話が弾んだおかげか退屈することもなくここまで来れた。
「あっという間だったな」
レイリックがそう言うと、それまで何もなかったはずの空間に突如、扉のようなものが無数に現れる。
溢れ出るそのオーラが、ここが目的地であることを本能に告げていた。
「先に進むものを試す試練か……しらみつぶしに開けるか?」
レイリックがまた笑う。
顔が多少黒くなったがそれでもその笑顔は同性でさえ一瞬惹かれるものだった。もう流石に慣れてきたけどな。
「霊亀のいる扉はわかるぞ」
「ほう? やはり、もう導かれているのだな」
レイリックの前を行き、吸い寄せられるように一箇所の扉の前に来た。
ここから何者かが俺を呼んでいる。
「外れを引けば未来永劫抜け出せぬトラップもあるというが……」
「それをしらみつぶしに開けようとしてたのか!?」
とんでもないやつだな……。
だとしたらもう少し慎重に選んだほうがと思ったが、すでにレイリックの手が扉にかかっていた。
「ふふふ。まあ流石にそんなものを引き当てるより先に到達すると思ってな。だが結果的にその必要もないようで何よりだ」
喋りながら、なんの躊躇もなくレイリックが扉を開いた。
そこには……。
「──っ!?」
扉から見えたのは巨大な亀の顔。その側面だけ。
それだけだというのに、その目でひと睨みされた俺の身体は言うことを聞かなくなる。
「なるほど……。ユキア、いけるか?」
レイリックの声かけでなんとか正気に戻る。
「ああ……やってみる」
テイムは力の差がある相手にはある種洗脳のような役割を果たすスキルだ。
動物相手であれば調教の手間を省く手段として用いられる。
これが魔物相手になると、テイムは洗脳ではなく契約のスキルになる。
契約は双方のメリットが必要だ。俺の場合テイムの恩恵として相手の能力を引き出せるため、これが決め手になるケースが多い。
だが……。
「神獣がこれ以上"強さ"なんて求めないよな……」
一回目、とりあえずいつも通り強さを条件にテイムしてみる。
「【テイム】──ぐっ!?」
「大丈夫か!」
【テイム】を試みた瞬間、俺は一瞬で意識を奪われた。
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