第30話 王宮の混乱②

「心配せずともこの程度の事故の鎮圧など造作もない。我が国の騎士団は優秀なのだ」

「は……はい! そう思います……!」


宮仕えの貴族である父を持つエレインだが、こうも身分の高い相手と対面して話す機会などなかった。

緊張で固まるエレインにビッデルはあくまで優しく微笑みかける。


「確かに復興に金はかかるが……何、心配はいらない。全てレインフォースが悪いのだ。金だけは持っているあの使えない男に全て責任を取らせれば良い」

「そっ! そうです! あいつは何の役にも立たないというのに偉そうで……!」

「ふふ……そこでだ。君に重要な役割を与えたいと思うのだが、どうかね?」

「もちろん! 何でもやらせていただきます!」


その返事を受けてニヤリとビッデルがその太った顔を歪ませる。


「良い返事だ……ここにレインフォースを、あの男を連れ戻せ」

「え?」


戸惑いを隠さない無能なエレインに苛つきながらもビッデルは言葉を続ける。


「なに。責任を取らせるだけだ。君の役割を奪うためじゃない、安心なさい」

「はい……なるほど、私があいつを呼んで、今度こそきっちり始末を……」

「その通り。わかったら行くと良い。君はドラゴンの飼育員だったのだろう? どうだい? 一頭くらい言うことを……」


そこまで言ったところでエレインの表情を見たビッデルは言葉を止める。

内心では悪態を吐きながらも笑顔を崩さずにこう言った。


「無理せずとも良い。あの男が裏で糸を引いているせいなのだから。だが馬くらいならなんとかなろう? それで向かうのだ。やつは北方へ進んだ森の中に身を隠している。手段は問わない。連れてきさえすれば私がなんとかしよう」

「はい……! 必ずや!」


飛び出すようにその場を離れたエレインを見送り、ビッデルの不満が爆発する。


「くそがっ……あの出来損ないめ……毎日竜の相手をするくらいしか仕事などないというのに一匹も操れないだと……? 無能にもほどがある……!」


そして改めて、目の前で起こる地獄のような光景を眺める。


「とんでもないことになりおった……あの馬鹿親子はあとでどうにかするとして……この問題はなんとしてもレインフォースになすりつけねばならん……」


国内で騎士団を総動員する事態。

内外で大きな被害が予想されるこの緊急事態において、財務卿だからこそこれがどのような被害をもたらすかはっきりとわかってしまうのだ。


「レインフォースを追い出すことを推し進めたのは私……降格は免れぬが、下手を打てば死罪……なんとしてもこれはレインフォースの反逆であることにせねば……」


ぶつぶつと呟きながら、その巨体を揺らして歩いていくビッデル。


「どうしたものか……」


もはやどうにもならぬこの惨劇を前に、ビッデルもまた現実逃避以上の行動は起こせないようだった。

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