第29話 王宮の混乱①

 王宮は地獄絵図と化していた。


「飼育係は何をしているんだ⁉」

「くそっ! どうして王宮で魔物と戦う羽目に……」

「おい! 救護班急げ! こっちだ!」


 魔物たちの暴走はほとんど同時に始まった。

 ユキアが王国を離れたことで、惰性で残っていた【テイム】の効果も完全に切れ、そこに加えてエレインをはじめとした飼育員達の舐めた態度についに国に仕えていた従魔たちが反旗を翻したのだ。


「そんな……どうして……俺はうまくやったはずだ……あいつにできて、俺にどうしてできない⁉」


 頭を抱えたのはエレインだった。


「おいてめえ! てめえのせいで俺たちは……!」

「やめろ! くそっ! だがこいつがレインフォースを消したんだったな……テイマーなんて金の無駄遣い、だったか? てめえらこれでいくらの損害になるかわかってんだろうな? 覚悟しとけや」


 エレインに迫ったのはまさにいま修羅場を鎮圧するために犠牲にならざるを得ない騎士たちだ。

 本来であれば自分たちが乗りこなすはずだった竜や馬、敵国に放つ魔物と生身で戦う必要に迫られているのだ。

 エレインがここで暴走した騎士団たちに殺されていないのは運が良いと言えた。

 無論、何発かもらってはいたが……。


「くそっ! あいつが……! 全部あいつが悪い……!」


 エレインは目の前の惨劇から目を逸らすように現実逃避を始める。


「今まで暴走なんてしなかったんだ……! これは……これは国家への反逆! あいつが、あいつが操ってこんなことに……!」


 その哀れな、全く見当違いなエレインの叫びに応えたのは、エレインと同じく後のない財務卿、ビッデルだった。


「ふむ……全くもってそのとおりだ。エレインと言ったか? よくぞそれに気がついたな」


 突然声をかけられたエレインが固まる。


「ビッデル……卿……?」

「ああ、君の父さんには世話になってるよ」

「いえ……そんな……⁉」


 思わぬ大物の登場に焦るエレイン。

 すぐさま姿勢を正した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る