第31話 世界樹

「ここが……世界樹か」

「ああ、想像と違うんじゃないか?」

「たしかに。普通の木をイメージしていたからな」


 案内に従ってペガサスを走らせてたどり着いたその場所は、森の中とは思えぬ巨大な魔道具でできた空間だった。

 世界樹は確かに木としてそびえ立っているのだが、レイリックたちの指示通りにすすめば、その大木をすり抜けるようにして全く異次元の空間に飛び出せるのだ。

 それが今俺がいる空間だった。


「これじゃあエルフが幻の生き物と言われるのも仕方ない……」

「精霊の加護を受けていなければ入れないからな。ここは玄関口であり、いわゆるロビーになっているが、上層階は住居や店が展開されている。最上階に王宮や長老会の施設もある。そして下が……」

「霊亀の封印場所……いやこれもう、ほとんどダンジョン化してるじゃないか……」


 禍々しいオーラだけは俺の肌にもビシビシと伝わってきているのだ。


「常にこんな状況だ。私が生きているうちに封印も解かれかねないということでね……実質、この封印が解けたときが国の終わりだと言われているくらいだ」


 まあ確かに、この生活拠点の全てを文字通り根底からひっくり返す存在がいるのだからその考えも違和感はない。


「少し休むか? すぐに行くか?」

「すぐ行こう」


 到着してから周囲のエルフや精霊たちの注目を集めているのが気になって仕方ない……。

 囁き声で耳に入るのは……。


「あれが人間……?」

「初めて見たわ……」

「貴方千年も生きていて初めて……?」

「おい……陛下が人間をまるで友人のように……」

「とんでもない人間なんじゃないのか……! 伝承にあった"勇者"みたいな」

「おお……すげえ!」


 早くこの場を離れたい……。

 変な目立ち方をしている。


「よし。では……ムルト、すぐに動ける精鋭を五名」

「すでに」

「流石はじいや……。じゃあ行こうか」

「お待ちを……まさか王自ら向かわれるつもりですかな?」


 進もうとしたレイリックをムルトと呼ばれた執事が止める。


「ユキア様にお会いになられるというだけでもおおごとでしたのに、封印の間に向かわれるなど……」

「私に友人にだけ危険な役目を任せろと……?」

「なりませぬ。ここはこの精鋭部隊にお任せを」


 レイリックがムルトを睨む。

 と、そこでムルトが連れてきたという精鋭の一人が声を上げた。


「俺たちを信用してくれないのかい?」

「当たり前だろう、ギント。お前は前回の任務を何年サボった?」

「たった三十年くらいじゃないか」


 三十年……。

 そして王に対して物怖じない様子……。

 強いのは確かだが問題児というところだろうか。

 だがそんな俺の予想はムルトさんの言葉で脆くも崩れ去った。

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