第13話王女ミリア
「お父様! レインフォース家を追放したというのは本当ですか⁉」
「なんじゃミリア。血相を変えてどうしたのだ」
王城の廊下で国王アルトンが娘に詰め寄られていた。
「レインフォース家……いえ、ユキア様を解任した上国外に追放など……正気ですか⁉」
「落ち着くのだミリア。お主はたしかに【テイム】の心得もありあの者になにかの親近感を抱いておったかもしれぬが、実際にいなくなってなにも起きぬのだ。そもそもお主も言っておったではないか。一人のテイマーが抱える生物の量には限界があると」
「そう言いました! だからこそレインフォース家がこのゼーレス王国には必要であるとも!」
王女ミリアは焦っていた。
王宮内でテイムを身に着けているのは彼女だけであると自負している。
今起きている事態を正確に把握できているのは自分だけであり、人を動かすには力が足りないことを痛感していた。
だからこそ禁じ手とも言える
「お父様。考え直してください。レインフォース家の加護がなくなればたちまちこの国は滅びます!」
「くどいぞミリア。いま、何も起きておらんことが何よりもの証拠ではないか」
「違うのです! 【テイム】はすでに段階的に効果が失われていっております。【テイム】のない魔獣や竜を相手に操れるような人間がこの王宮におりますかっ⁉」
「それは……だが飼育係がいるであろう」
「あれが最低限の仕事しかしていないのはご存知では……? ユキア様が出られて以降、まともに飼育係が世話をしているところなど──」
ミリアに出来たのはそこまでだった。
「おやおや……王女様は我が息子の仕事ぶりにはご不満でしたか……申し訳ありませんなぁ」
マインス卿……アイレンが姿を見せたのだ。
その表情にミリアに対する敬意は感じられない。正規ではない裏口的なやり方で国の政治に手を出したミリアに対して、アイレンのほうが正義を掲げやすい状況だったからかもしれないし、ユキア同様立場の弱いテイマーという役割のせいかもしれない。
「人払いくらいしておくんでしたな……ここではあまりに目立ちますぞ。姫様」
「貴方が……ユキア様を……?」
「おや、一介の飼育係に姫様が……?」
「くだらない言い争いをしている暇はないのです。今すぐ呼び戻さなければ……」
焦りを覚えるミリアに対して笑みを崩さないアイレン。
「ふむ……そのくらいにしておけミリア」
国王は娘を諌める選択をした。
「レインフォース家はたしかに代々我が国の使い魔の管理で大きな貢献をしてきた。特に初代においては今の騎士たちの基礎すら作り上げた偉人だ」
「だったらっ!」
語気を強めるミリアをいなすように手で制して、国王アルトンはこう続けた。
「その功績を考慮し、処刑は免れた。偉大な先祖の実績にあぐらをかき、ただの飼育員程度で貴族の地位を保ち続けていた彼らは、もう国にとって必要のないものだった」
「そのとおりでございます。むしろ先祖代々莫大な報酬を国庫から奪い取り続けていた……もはやあれは害虫。姫様もはやく、目を覚まされることをおすすめいたします。それともすでに姫様が【テイム】でもされておりましたかな?」
「下衆がっ!」
「おやおや……」
パンッとアイレンの手を弾いたミリアはそのままの勢いでその場をあとにする。
アイレンはニヤニヤと笑うだけだった。
「私だけでも……なんとか……」
【テイム】ができるからこそ、ミリアはひしひしと実感している。
自分程度のスキルでは、王宮内の生き物をすべて従えることなど到底不可能であることを。
それがよりにもよって飼育を担当する貴族の子息たちがいい加減な管理を、あまつさえ種によっては加虐を加えるような状況にあってなお従えさせる力など、大陸を見渡してもユキアを除いていないはずなのだ。
「私は……無力すぎる……」
力があれば、ユキアの追放だって事前に防ぐことができたのだ。
王女という地位にあぐらをかき、何も成し遂げてこなかった報いかもしれない……そんな考えがミリアの頭をよぎった。
「私にできることをしないと」
孤独の王女は考える。
これから起こる国難に対抗するためにできることを……。
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