第8話王都の外

「ここがリスドル……」

「王都から離れられたことのないご主人様には新鮮に映るでしょうな」


 言葉を選んだロビンさんだが、要するにあまりに活気も人気もなくて驚いたのだ。


「馬車は……」

「預かるような施設はありません。ご主人様であれば一度森に解放して翌日呼び戻せばよろしいかと」

「なるほど」


 荷物はマジックボックスに入れてあるから宿に運べるし問題ないか。

 流石に馬のいない馬車をそのまま持ってく盗人もいないだろう。


「宿の手配はすでに済んでおりますので。食事は私が用意いたします」

「ありがとう」


 舗装されていない土の道を走らせながらロビンさんが言う。

 ちらほら見える店は必要最低限のものしか並んでいない。

 それにしても……。


「シャナル。王都の外はどこもこんな様子なのか?」

「兄さん、私も一応王都生まれ王都育ちですよ?」

「でもシャナルはヴィートから景色を共有されてるだろう?」

「兄さん……王宮にいて私のことなど見ていないかと思ってましたが意外と見てるのですね」


 しまった。

 妹のことを観察してる気持ち悪い兄だと思われただろうか……。

 顔を逸らしたままシャナルはこう言った。


「辺境の村々はそれぞれに様々な事情を抱えていますから。ここは王都近辺といえばよく聞こえますが早い馬車で半日かかるような道のりですし、そもそも村人が街道を抜けるには危険が多すぎて生涯を村で過ごすことがほとんどです。人の出入りがない村はこんなものですよ」


 なるほど……。

 幼い頃から王宮で父を手伝い、父が亡くなってからは文字通り休みなく働き詰めだった俺にこういった常識はない。

 だが……。


「せっかくだから少しくらい活気が得られると良いんだけどな……」

「兄さんがやる気なら、意外と村の閉塞感を打破するのは簡単かもしれませんよ?」

「え?」


 シャナルがようやくこちらを向く。

 機嫌を直してくれたのだろうか。


「馬車を引けるような生き物をテイムしてあげればいいんです。きっかけがテイムでもその後しっかり世話や調教すれば村人でも扱えますよね?」

「まあそれはそうだろう」


 王宮の魔物たちが暴走すると進言した理由はまさにここだ。

 飼育係がろくに世話を覚えていない状況だし、魔物の管理は檻につないで餌を投げるだけの本当に雑なものだったからな……。ひどい場合には抵抗しないのを良いことに攻撃を加えるものまでいた始末だ。懐く懐かない以前の問題だった。

 人間に不信感を抱いた以上俺が近づいても悪化させるだけなので彼らになるべく人が近づかないようにするしかなかったが……。


「ユキア。手を差し伸べるのであれば徹底的にやりなさい。中途半端ではいけません」


 俺たちの話を聞いていた母さんがそう言う。


「崖から人が落ちる時、落ちた人は最後に手を差し伸べた人の顔を思いながら死にゆくのです。貴方が手を差し伸べるなら、必ず救い切る覚悟を持つように」

「わかったよ」


 母さんの言うことは尤もだ。


「まあ、兄さんのことだからもう決めているんでしょうけど」


 その日のうちに俺は村長との約束を取り付けた。

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