第7話最後の晩餐

「やりましたな、ビッテル卿」


 ビッテル財務卿の周囲には王宮に仕えるビッテル派の貴族たちがすでに集まり宴会の様相を呈し始めていた。


「これであのレインフォースに与えていた無駄金が浮く……つまり我々は……」

「ふふふ。それ以上は口に出すなよ?」

「もちろんです、ビッテル財務卿殿……いえ、次期宰相殿とお呼びした方が?」

「ははは。面白い冗談だな」


 まんざらでもない表情でビッテルが笑う。


「しかし良かったのです? 国王陛下とあのようなお約束を……」

「なんだ? お前はレインフォースを信じるか?」

「いえ! そんな滅相も……」

「案ずるな。万が一あのレインフォースの小僧の言う通りになったら責任を取れるかなど……万が一が起こらないからこの計画を動かしたのだ。であろう? マインス卿」


 少し遅れてやってきたアイレン……エレインの父、マインス子爵に気付いたビッテルがそう声をかける。


「もちろんでございます。我が息子が文字通り、手綱を握っておりますゆえ」

「それは安心だ。聡明なご子息をお持ちで羨ましい限り」

「あやかりたいものです」


 すっかり出来上がっている貴族たちにも持ち上げられ、アイレンは鼻高々だった。


「これまで何の問題もなかった宮廷の馬や竜が今更暴れだすなどありえぬ……だが他国であの小僧が活躍すると陛下も気にされることだろう……」

「足取りはつかんでおられるので?」

「無論だ。思ったよりも早く動いたようだが、よりにもよって向かう先が北とは……間抜けな男だ」

「北ですか! 魔の森とその先の山岳……自ら逃げ場をなくしたと」

「ああ。もともと王国に寄生し続けた家だ。頼る宛もなくさまよっているのであろう。わざわざ目立たぬ場所に向かうというなら到着してから殺したほうが好都合というもの」

「ごもっともで。いやぁしかし、何もかもビッテル卿の思惑通り……流石ですなあ」


 貴族たちが笑い合う。

 気を良くしたビッテルが自慢のコレクションであるワインまで解禁しはじめ、宴は夜を徹して行われることになった。

 それほどレインフォース家へ払っていた金額は大きく、これから彼らが手にする恩恵は大きいのだ。

 なにせこれまでは、レインフォースなしでは軍が機能しないなどと脅されていたわけだから。


「忌々しい一族だったが……間抜けな小僧が最期を締めくくったな」


 ビッテルは笑う。

 だが彼らは知らない。


 すでに王宮の生き物たちの【テイム】が解けていることを。

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