耳
もうそろそろアカギは小学生になる。
堕落生活は終わりか、と少々残念がるアカギとは対照的に、両親は迷っていた。
どこの小学校に通わせようか、である。
幼稚園の年少組の頃にアカギの不思議発言。覚えている子供は少ないだろうが一定数はいるだろう。
子供だけではなくその親に目を向けるならもっと事態は深刻化する。
とは言え、アカギはたった一言しか不思議発言をしていないのだ。そこまで気にかけることもないのだろうか。
悩みに悩んだ末、2人はアカギを少し遠くの学校に通わせることにした。父の職場に近く、例の幼稚園からはかなり遠いところにある。
そして晴れてアカギは小学生となった。
入学式の家族写真にたくさんの「見えないモノ」がいたことはアカギのみが知る。
朝は父に連れられ学校に行く。
教室に入ったら元気な声が聞こえる。それをBGMに読み掛けの本を開くのが朝の習慣だ。
常識その1 呼び掛けには応えよ
「アカギちゃん!おはよう!」
「おはよう」
たとえ読書中だろうと声をかけられれば必ず返す。そのままつまらない話が続こうともしっかり聞く。
そうすれば相手や周りの人は「聞いてくれる子だ」と認識し、「本ばっかり読んでる変なやつ」というレッテルを変えるだろう。
常識その2 適度に分からない振りをする
「アカギちゃん!ここわかる?」
「んー。わかんない」
「えへへ。わたしおしえてあげるね」
四則演算をマスターしているアカギにとって小一の問題は簡単すぎるが、全て分かればとっつきにくい存在になる。
相手を立てる、という観点からも必要だと「見えないモノ」は言っていた。
常識その3 たまに笑顔
表情は対人関係において最も重要だと聞く。たまに笑うと好印象をもたれやすい、らしい。無表情ではないが真顔がデフォルトであるアカギはたまに笑ったり困った顔をしたりと表情を小一並に落とそうと奮闘している。
努力はした。結果はどうだ?
ともかくとしてアカギは概ね普通の児童であった。それは他の児童と先生の評価である。
家に帰って先々の勉強を詰め込んでいるアカギを見つけて母は長年の不思議を聞く。
「どうしてお家で勉強をしているの?」
普通は嫌がるものだし、事実母は自主学習などほっぽりだして遊びに行くことが多かった。
勉強が好き、というわけでもなさそう
母は首をかしげる。
なにも家で勉強しないでほしいというわけではない。純粋な質問であった。
「うーん…がっこうだとうるさいから」
アカギは嫌なことを思い出して小さく呟く。
母はもしや虐められているのかと焦った。
「虐められてるの?」
「ううん、」
アカギは首を横に振って大丈夫だと微笑む。
「すけてるこどもがうるさくて」
母はようやく合点がいった。
アカギから見る学校は児童が多すぎて何が何だか分からない。
アカギが聞く言葉はどれが本当かわからない。
だから少しでも静かな場所で集中したいのである。
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