手
最近気付いたことがある。
もう何年も前から当たり前だったことをふとした瞬間に不思議に思うことがあるだろう。
癖が1番のいい例だ。
ペンの先を出したまま筆箱に入れるとか。
シャーペンは三回押してから書くとか。
特に意味もなく習慣づいたことを「何故?」と我に返るかのように考えるのだ。
アカギも「何故?」と考える。
「見えないモノ」たちは現実に存在するもの触れない。アカギが「見えないモノ」たちに手を伸ばしてもすりぬけるだけ。
でも「触りたい」と思えば_あるいはおそらく無意識下で触ることを選択すれば_触れるようになるのだ。
思い返せば不思議である。
日常生活において触る必要性はなく、むしろ邪魔になるのでないものとして過ごす。
しかし必要な時_例えば届かない場所にあるものを取って欲しい時_は触る。
原理はなんだろう。
条件はなんだろう。
宝物を探し出すような高揚感がアカギの頭を支配する。小学生の思考ではなく研究者の思考になりつつある7歳をどう評価しようか。
例えば「ファンタジー的な力が働いている」という仮説はどうだろう。
漫画や小説の中で主人公たちが行使する力。霊力とか妖力とか神力とか?名前から醸し出される詐欺感に心が萎えそうだ。
仮説が定まったら実証する。
両親が仕事に行っているため、今日は一人で留守番中のアカギ。ちょいちょいと「見えないモノ」を招いてその手を握った。
『どうシたノ?』
耳に響かない声。鼓膜を揺らさない声。
頭の中に直接入ってくるような、脳にぽっと言葉が浮かんでくるような声。
アカギを優しく見つめる「見えないモノ」は握られた手を握り返した。
「…なんで私はお前たちの手を握れたり、触れたりするのかなって」
『アあ。なるホど。たしかニふしギね』
答えは誰も知らず。これ以上の確かめる術は浮かばない。
もしや「かめはめ〇」みたいなものを撃てるようになったりは…………ファンタジーすぎる。
未解明で無害なものなら気にしなくてもいいのかもしれない。アカギはそう結論づけた。
«もしもし、アカギ?»
「うん」
«ごめんなさい、今日帰れそうになくなっちゃって。お父さんも無理そうなのよ。なるべく早く帰るけど、夕飯は冷蔵庫にある黄色のお弁当箱に入ってるわ。レンジで、んー。そうね。600wで1分間温めてね»
「分かった。お仕事頑張ってね」
«ええ。なるべく早く帰るから»
「うん。ばいばい」
午後4時30分。家の固定電話が鳴ったと思えば仕事に行っている母からであった。
父は大きな会社の会社員。母は医療従事者。
偶にというか週に一回くらいのペースでこういうことはある。アカギは慣れてしまった。
ランドセルを所定の位置において、親に出すプリント類を取り出す。
宿題は学校でやった。後は音読だけだが、今回も一人で黙読する。
_鍵っ子、と言うんだっけ。
でも親は不定期な業務形態。逆もあるのだ。
親が先に2人とも帰っていてアカギが一番最後。
撫でられる手の重みと暖かさがなにより心を軽くする。
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