第51話執筆する者たちへの賛歌

とある売れない作家の男、今日も構想を練る日々である

散らかった机の上にノートパソコンを広げ、ない想像力を駆使して

考え込んでいる


「う~ん、う~ん、なんにも思いつかない。どうすればいいんだ」

数少ない連載の締め切りが2日後に迫っている

その連載の物語は魔法と剣が交錯する夢の国のお話

この男、想像力がなにくせに、大風呂敷を広げた感じの物語

今の段階でのお話は主人公の男が巨大な竜に立ち向かっていくところ

だが、この作家、この竜に同情してしまって、どうにも竜を倒す場面を描けない

この竜、一族が人間に殺されてしまって、人間に憎悪をいだく

「だからって、さっさと竜を殺すわけにもいかないんだよなぁ」

この作家、へんな所がお人好しだ

「ああ、この竜、主人公に勝たせてあげたいなぁ」

この作家、もうめちゃくちゃなことを考えだす。末期である


この作家の男、うんうん、うなって考え込んでいると、

ぴか~んと物語の構想がひらめいた

「そうだ、竜と主人公が激闘の末、和解するというのはどうだろう?

そして、世界に平和が訪れるんだ。うん、これはいい」


この男、取り憑かれたように、パソコンのキーボードを叩き始めた

物語の中の竜と主人公が激闘を繰り広げる場面を描くと

戦いの中で主人公と竜が対話するうちに、心を通じあわせる

「よし、いいぞ、この調子だ」

この男、勢いを増して、物語をいっきに書き終えた


男は、ふぅ~、というと、宙をみつめ、残りの缶コーヒーを飲みつつ

「やっぱり平和が一番だ」とつぶやいた

そして、担当の編集者にパソコンから完成した原稿を送る

「これ、傑作なのでは」

作家は一人ニヤニヤして、自己満足

すると、恐ろしく早く編集者からメールが来た

「これ、おもしろくない、ありきたり、ボツ」


作家はつぶやく

「ああ、世の中は甘くない」


締め切りまであと二日、この売れない作家に幸あらんことを




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