第50話初日の出と老猫

 元旦の早朝、とある公園のベンチで初日の出を待つ老猫がいた

「うう、寒いのう。でも、初日の出を拝まないと今年は始まらないな」

 まだ、薄暗い空、猫の吐く息は白い


「わしの寿命はいつまでだろう?」

老猫は自分の命のともしびが、もうわずかなのを知っている

「まぁ、いつ逝っても、別にいいわい」

それはなげやりではなく、達観、生きるということを味わい尽くした末の言葉、

老猫の本心だった


ベンチの上でじっと日の出を待つ

しばらくすると、なんと人間の一人の男が公園に入ってきた

この男も日の出を見ようとやってきたのかもしれない


「おう、猫よ、お前も日の出を見に来たのか?」

そう言うと、老猫の隣に男は座った

老猫、ちと寒かったので、男にぴったりとくっつき暖をとる

男は猫を軽くなでるとニコニコして言った

「お前、見たところ、もう歳だな

 だが、世を去るにはまだ早いぞ。まぁ、これを食べろ」

と言って、男は猫にサンドイッチをちぎって与えた

老猫、にゃ~とお礼を言い、食べる


そうこう言っているうちに、辺りが明るくなってきた

東の空に太陽が出始めた

空が、赤く染まる。雲ひとつない、空


老猫と男は目をキラキラさせつつ、太陽を眺めた

「ちょっとまぶしいな」

と言って、男は猫をなでる


猫と男、しばし、陽の明るさに心を奪われた

辺りは静か、次第に太陽がその姿を現す


老猫はふと思った

「うむ、わしもまだまだ死ねないぞ。陽の光をこんなにも楽しめるうちは」


老猫と男、今年も初日の出に勇気をわけてもらったのであった





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