第42話とある男と秋の夜

 とある男、仕事から帰ってくると、風呂と食事を済ませ、

ノートパソコンで、ネットを徘徊する

 これはこの男の日課といっていい


秋のちょっと寒い夜、男は今日もネットを徘徊する

この男、噂話が好きである

芸能人のゴシップから地方議員の噂まで

ありとあらゆる噂を観賞する


今日もこの男、噂話を仕入れつつ、ニヤニヤと笑う

「ふふふ、人間というものは、なんと愚かなのか、

ゴシップまみれの人間どもめ、こうして噂をばらまかれて、

さぞ、不幸のどん底にいることだろう、

それは自業自得だ。思い知るがいい」


男は噂話をばらまかれて、右往左往する人々を見て、

いつも自分の幸せを自覚する

自分のような目立たない人間は、得をすることはないが、

損をすることもない

「私は世の中の観察者なのだ」

そう男は自分に言い聞かせて生きている


観察することが、目的になった生き方

それは、人をとても傲慢にする


男は、ふと新聞のデジタル版を読んでいた

すると、その記事にコメントが書かれていた

そのコメントのユーザー名は「チリ」

女性なのか男性なのか、分からない

そこにこう書かれてあった

「世の中で、観察することを生きがいにする人って

さみしい生き方だよね

自分の人生で、自分が主人公にならなかったら意味ないじゃん

もっとみんな積極的に世界と関わろうよ

そうすれば、世の中はきっと変わるよ

世の中が変われば、あなたも輝いた生き方ができるよ」


男はそのコメントを見ると、ふふふと笑い、言った

「チリよ、分かっていないな

世界は劇場なのだ。そこには観客も必要だ。それが私だ

観客はあくまで見ることによってのみ存在価値がある

けっして演劇に参加してはならない

その不文律を破るとき、その者は、世の汚れにまみれた

汚濁となるのだ


観客はあくまで、観客。その立場は、清廉潔白な立場だ

私は世の中に対して不干渉であることを選んだのだ」


男はこうつぶやくと、チリのコメントを閉じた


劇場の演者となるか、観客となるか、それは自分次第

世界はあなたのお望みのまま、その姿を現す

さて、あなたはどちらを選ぶ?



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