第37話ポムポム

 「ああ、ネットは楽しいなぁ」

私、ミリは今日も楽しくネット徘徊

ノートパソコンを駆使して、今日あった出来事を検索していく

仕事が終わって、家に帰ると私は独り、今日もまたネットを散策


私は毎日、起きた事件を眺めるのが好きだ

殺人、強盗、万引き、社会の闇を観察することが、私の趣味

人は悪趣味だというと思うが、社会の闇を見ることで、

「ああ、私には関係ない、私は今日も幸せ」と思える

ちょっと幸せの感じ方が人と違うだけ


今日もネットを徘徊しつつ、熱い緑茶を飲んで、ホッと一息

「ああ、今日も事件は起きるのね」と思いながら

他人ごとである事件を眺めて幸福感にひたる


そんな時、パソコンの画面に変な文字が浮かんできた

「おい、そこの娘、お前、性格悪いな」

なんだろう、この文字は私に対して言っているのだろうか

「そうだよ、ミリ、お前、性格悪いな」

きゃ~、思わずのけぞる。確かにこの文字、私に向かって言っている

「おい、今、俺様のチャットルームにお前を招待したぞ」

「このボードに文字を書いたら俺様とチャットができる、やれ」

ちょっと間をおいて、パソコンの画面にチャット欄が浮かんできた

どうやらこれを使って、この謎の人物と会話をしなければならないようだ

私は、怖くもあったが、この私の名前を知る人物に興味をもった


「あの~、あなたはどなたですか?どうして私の名前を知っているのですか?」

そうチャットに入力するとすぐに返事が来た

「わしはポムポム、哀れな人間どもに救いをもたらす神じゃ」

私はそれを見ると、ちょっとひいた。しかし、好奇心が増してくる

「私は哀れではないですよ、失礼ですね」

「い~や、お前は社会の闇を眺めてニヤニヤしている変態だ

充分に哀れな人間だ。どれ、私が救ってやるとしよう」

「どうやって救うのですか?」

「それは決まっておる、お前のストレスの原因を究明して、処方をさずけるのじゃ」

「ポムポムさん、私にはストレスなんてないですよ」

「ふん、誰でも最初はそう言うものじゃ、どれ、おぬし今日も上司に怒られて

かなりへこんだようじゃの。そのストレスが積み重なって、お前を社会の闇への

誘惑へと駆り立てているのじゃ」

「なんで、私が怒られたこと知っているのですか?」

「私はなんでもお見通しじゃ、神だからな」


ポムポムはそういうと、「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ」と笑っている

「おぬし、上司に怒られない方法を伝授してやろうか?」

私はこの降ってわいた幸運に乗ることにした

「お願いします、あの上司、しつこくねちねち怒ってくるんです、もう嫌」

「そうだろ、そうだろ、怒られない方法は、ちょっとご機嫌をとることじゃ」

え~、なんだろう、この失望感。このポムポムという神、アホなのか

「ご機嫌取りで怒られなくなるのなら、もうやってます

お茶くみしたり、お世辞言ったり、いろいろ試してみたんです」

「そうか、それならば、もう一つ、いい方法があるぞ、

それは、飲み会でホステス的なことをすればいいのじゃ」

やっぱり、この神、アホだなと思った

セクハラを許せとでもいうのだろうか

私は急にこの神に対して興味がなくなってきた

「あの~、もう私寝たいんで、チャットを終わりにしていいですか?」

「なに、もう終わりか、さみしいのう、私は無駄なことが好きなのじゃ

だから、こうして、おぬしと無駄話をしておる

私に目をつけられたくなければ、もう社会の闇を覗くのは辞めよ」


というとポムポムはチャット欄から消えた


私はポムポムが何をしたかったのか、それからふと考えることがある

きっと、私と無駄なことをしゃべったのは私の自身の愚かな行為に

気づかせるためだったのかなと思う。


それに気づくと、私はもう社会の事件からは興味がなくなった

日常の小さなことからも喜びを見出すために、

周りに目を行き渡らせるようになった


ポムポム、それは私自身による、一種の忠告だったのかな


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