第34話正月に、幽霊あらわる

 とある男、正月はいつも寝て過ごす

ぐーすか、ぐーすか。午前中は完全に寝て、

午後はゆったりと起き出し、大晦日に作っておいた雑煮を食べる

「あ~、今年もいい正月だなぁ」

男、いつも能天気な奴である

午後、食事を終えるとテレビで正月番組を見始めた

お笑い芸人が「おめでとうございます」を連呼し、おめでたい感じだ

いつものようにテレビを観ていると

「うらめしや~、うらめしや~」という声が聞こえた

遠くのほうから聞こえてくるらしく、どうもはっきりしない

男は最初テレビからの声だと思ったが、そうではなさそうだ

「うらめしや~、うらめしや~」

今度ははっきりと聞こえた

男はあたりを見回した。すると後ろから男の肩をとんとんと叩く者がある

男はびっくりして後ろを振り向くと、そこには少年が立っていた

「おじさん~、うらめしや~」

男は状況をよく理解できないまま、ぽかんとしていると

少年は続けていった

「おじさん~、うらめしや~、うらめしいんだよ~」

「お前、どこから入ってきた?誰だ?」

「僕はこの団地で昔死んでしまった幽霊だよ~」

男は少年がどうも幽霊には見えないので、面白くなってきた

「お前、近所のガキだな。友達いない感じだな」

そういうと、手元にあったポテチに手を伸ばした

「小僧、ポテチ食べるか?」

少年はきょとんとしたが、ポテチに手を伸ばすと食べた

「おじさん~、おいしいよ~」

「小僧、俺は今日は休みなので、まぁ、許してやる

でも、人の家に勝手に入ってくるなよ」

そういうと男は冷蔵庫に入れてあったとっておきのケーキを

少年にあげてみた

もぐもぐ、もぐもぐ。少年は夢中で食べた

「おじさん~、おいしいよ~」

それから男は次々に少年に食べ物を与えてみた

カップ麺、柿ピー、シュークリーム、せんべい

少年は夢中で食べる、食べる

「おじさん~、おいしいよ~」

少年はうれしそうに食べていたが、少年の姿がどんどん薄くなってきた

「おじさん~、僕満足してしまって、この世に未練がなくなってきたよう」

「おじさん~ありがとね~」

そう言うと、少年は成仏して、消えてしまった

男は、少年が幽霊だと言ったのが、冗談だと思っていたので、びっくりしたが、

まぁ、いいかと思いなおし、

「正月早々、いいことしたなぁ」とつぶやくと

缶ビールで独り乾杯したのであった

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