第33話とある神様と男

 ある古い神社に神様が住んでいた

この神様、普段はなんにもしない

ぼーっと日差しを浴びてのんびり昼寝

この神社は古いので人はだれも住んでいない

寒い冬、もう年末。新年も近い

そんな時に、独りの男がこの神社にやってきた

この男、失業して今日の食事にも困っている

「ああ、お腹が空いた。私はどうしたらいいのか」

男は空腹を抱えたまま、神社の中へと入っていった

神様、男を見つけると、いい暇つぶしになると思い、声をかけた

「おい、そこの男、何しに来た?」

男はびっくりしたが、神様は少女のように幼い姿をしていたので

我を取り戻した

「私は無職の男です。食べるものがありません

どうかお恵みを」

「いいだろう。その代わり、食べたら私を楽しませてくれ」

そう言うと、神様は瞬時にご馳走を出してみせた

男はお礼も言わずに、食べ物にかぶりついた

むしゃむしゃ、むしゃむしゃ

これは美味しい。肉に魚介類、新鮮なサラダにスープ

この神様、和風なのに出す食事は洋風だ。ちょっとオシャレ

「ふぅ~、ありがとうございました。おかげで命拾いしました」

「ところで、あなたはここの神社の娘さんですか?」

「違う、私は神じゃ、崇め奉れ」

男は冗談だと思い「ああ、神様ね。」と納得したふりをした

「ところで、男よ。食事も終わったことだし、私を楽しませてくれ」

男は、にっこり笑うと「いいでしょう」と言った

男は、むかしテレビで観た漫才のネタをひとりで実演してみせた

神様、けっこうウケた。この神様ちょろいのかもしれない

男は気をよくして、今度は変顔をした

神様、バカウケである。やはり神様、ちょろい

「うははは、はははは、もうよい。これ以上笑ったら死ぬ」

男は嬉しくなり、神様と一緒に笑った

「笑う門には福来るじゃな」

神様はそう言うと、男に布団を提供し「よく休むがよい」

と言い残し、神殿の奥へと下がった

男はそこで夜を明かし、大きな声で神様に礼を言った

「神様、ありがとうございます。これからも頑張って生きていこうと思います」

男がお礼を言ったが、神様は出てこない

神様は、きのうたくさん笑ったので、ぐっすり就寝中である

男は、神様がいるであろう方向に一礼すると、神社を後にした

男は神様に救われたことに感謝し、これから先どんなことがあっても

くじけないで生きていこうと誓いつつ、新しい歳を迎えるのであった




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