第8話迷宮
どれだけ歩いただろう。男は薄暗い通路を歩いている
両脇は本棚に囲まれていて、棚には古い本が陳列してある
男は疲れてきたので、立ち止まるとふと本棚から一冊の本を取り出した
本にはこう書かれている
「迷宮へようこそ、ここは賢者へと至る道。心して進まれよ」
「この迷宮は迷える魂の行きつくところ、くれぐれも立ち止まるでない」
男はこの一文を読むと背筋が寒くなった。だから、再び疲れた足を引きずって
歩くことにした。出口は見えない。
しばらく歩いた。すると本棚の脇に椅子がおいてあり、老人が座っていた
男は久しぶりに人を見たのでうれしくなり声をかけた
「すいません。道に迷ってしまいまして、出口はどこですか?」
老人はニヤッと笑うと、答えて言った
「若者よ、一つ謎に答えてほしい。答えられたら、出口を教えようぞ」
男は戸惑いながらも、しぶしぶ承諾した
「では、質問。苦痛と快楽。必要なのはどっちじゃ」
男はしばし考えると、ぴんとひらめいた
「それは苦痛です。なぜなら苦痛は人間を成長させ、快楽は怠惰をもたらす」
「正解じゃ。お前さんに必要なのは、苦痛。しばし苦しまれよ」
すると老人は煙とともに消え去り、あとには椅子だけが残った
結局、出口を教えられず、男は再び歩き出した
どれだけ歩いただろう。ふと前をみると小さな女の子が本棚に寄りかかっていた
「おにいさん、なぞなぞに答えてくれるかな。そうしたら出口を教えるよ」
「いいだろう。言ってみなさい」
「えへへ、では質問ね。読書から得られるものはなに?」
男は戸惑ったが、真剣に考えた。すると答えがひらめいた
「それは知識を知恵に変える機会を与えられるということ
しかし、ただ読書をしただけでは、知恵まで昇華しない
考え、考え、少しづつ進む者だけが、知恵までとたどり着く」
少女はにこっと笑うと「正解」といった
「おにいさん、だいぶ知恵がついてきたね。わかった。もう許してあげる
こっちに来て、ここから出られるわ」
少女に腕を引っ張られると、男は本棚の中に吸い込まれた
一瞬目の前が明るくなり、まぶしかった
目を開けると、そこは芝の生えた草原のただなかであった
「おにいさん。おめでとう。知の迷宮から出られたわ
これからあなたは、ここで学んだことを生かして生きていくのよ
では、さようなら。」
そう言うと少女は煙とともに消えた
男は迷宮での出来事を反芻し、果たして自分がここで何を学んだのか考えた
私は、忍耐と熟慮と知識を身に着けた。あとはそれを知恵に昇華させることだ
男は、草原に一人立つと、少しの疲れとともに充実した気分を味わった
そう、これから何があろうとも、私は生きていける
男は未来への確信を胸に第一歩を踏み出した
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます