第2話考える猫

 とある公園に住む猫。ただいま考え中である。今日の朝食をもらいに行くところを厳選している。

「田中さんの家には昨日行ったし、鈴木さんの家の食卓は貧しいし、斉藤さんのところは小さい息子さんがじゃれてくるし、どうしよう。難しいなぁ。」

この猫、餌をもらいに行くためならば、手段を選ばない。そこの主人に猫なで声をしてみたり、娘さんに前足を差し出して握手を求めたりと様々な趣向で、餌くれびと達をもてなす。猫の間では、餌をくれる人々を、餌くれびとと呼んで敬意を表する。

 猫は迷いに迷い、ついに決めた。「よし、伊藤さんの家に行こう」

 猫はそう思い立つと早速土管の中からはい出し、せっせと歩き出した。なぜ、伊藤さんの家に行こうかと思ったかと言えば、伊藤さんの家はおじいさんの独り暮らしで、朝起きるのも早いし、なにより朝食にはたいてい焼き鮭が出てくるからだ。その残りをいつも頂戴して飢えをしのいでいる。

 いつもの通り、木造平屋の伊藤さんの家に来ると庭先からちょうど朝食をとっているおじいさんが見えた。猫はおじいさんに一声かけると、餌をくれるまで庭先で待たせてもらった。おじいさんが猫に気づくとこういった。

「おお、またきおったか。おはよう。お前のお気に入りの鮭が残っておるよ。こっちへおいで」

 猫は縁側までいくと行儀よく前足をそろえて座った。おじいさんは皿の上に残り物の鮭をのせて猫にくれた。

 猫はよく噛んでぺろりとすべて平らげた。うまい。焼き加減がとてもよろしい。猫は一声鳴いておじいさんにお礼を言った。おじいさんは猫の頭を撫でた。

 猫はおなかを満たすと我が家である公園まで歩いた。土管の中に戻ると猫は舌で毛づくろいをしながら、また今度は昼食をどこで食べるか思案した。

「吉村さんの家にはおととい行ったし、木村さんの家は遠いし、山内さんの家は貧乏だからな。どうしようかな。」

 真剣に思案する姿はさながら哲人である。いつも食事のことで頭の中はいっぱいだ。

 そう、この猫。考える猫である。

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