物語、はじまり、はじまり

ポンポコ

第1話こーひーぶれいく

 仕事が一息ついた。パソコンから目をそらし、宙を見つめる。このところ忙しかったので、疲れがたまっている。席を立ち、インスタントコーヒーを淹れに行く。

 コーヒー片手に席に戻ると、ほっと一息、一口飲んだ。疲れがほんの少しだが、和らいだ気がする。ふと、パソコンの画面を見つめると、どうしたことか画面上を一匹の小さいウサギが飛び跳ねている。目を疑ったが、やはり跳ねている。

 私は混乱してマウスを手に取ると、そのウサギをクリックしてみた。するとこんなテキストが浮かび上がった。

「社畜の皆さん、お疲れ様です。うさぴょんの癒しタイムをお届けします。疲れをいやしてね」

 私はうろたえると、どうしてよいか分からず、隣の同僚に尋ねた。

「君、この画面に浮かんでいるウサギはなんなのだろう?」

同僚はめんどくさそうに顔を上げると言った。

「ああ、それか。お前は知らないのかい。最近話題になっている、うさぴょんを。」

「そんなもの知るか。なんなのだ?」

「人畜無害なコンピュータウィルスさ。とくに悪さをするわけでもなく、ただみんなを癒すためだけに存在するウサギ。変わり者のお遊びさ」

 私は判然としない面持ちで、ウサギを見つめる。画面上の道化は、腰をフリフリ踊っている。コーヒー片手に、見つめていると、なんだか肩の力が抜けてリラックスしてきた。休憩は終わりだ。仕事に戻ろうとエクセルを起動すると、ウサギは消えた。

 それから数日。ウサギとともに仕事をしているようなものだった。疲れてきたと思うと画面上にウサギが現れ、腰をフリフリ踊りまくる。なんとも癒される。

 電脳世界にたゆたうウサギ

 疲れを癒し、去っていく

 ぴょんぴょん跳ねると我々は

 知らず知らずにリラックス

 そんなに急いで働くと

 体と心はボロボロに

 一息ついて踊りましょう

ウサギは今年のGDPを2%上げる役目を果たした。

 仕事の生産効率を上げるため、政府が仕組んだ電脳ウサギのおかげである。

 

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