Service Shot(after…秘密)※本気本領R15BL注意

 真尋が出て行った部屋で、ベッドに座ったまま敬也はそわそわと落ち着きない気分で待ちわびていた。

 準備、と言われれば、自分にできる準備は服を脱ぐのと被膜くらいのものだろうか。それでもその時間は由々しき問題で、一秒でも早くと気が急いてしまうのだから、全裸待機もやぶさかではない。すっかりと準備は万端である。


 会えなくて寂しいだなんて。

 ずいぶんと駄々をこねたつもりはある。

 だけどそれが自分だけではないのだと……いや、自分だけではないのはちゃんと理解していた。毎日電話までかけてきてくれたのだから。

 でも、あまりにいじらしい真尋の行動を知ってしまったならば、胸に風穴があくくらいの尊死爆撃に、ありとしあり得るもの全てに感謝を捧げたいくらいの幸福に包まれた。


 あまりにも可愛い。ありえないくらい可愛い。たまらなく可愛い。

 こんなに上限が見えないくらいの可愛いの権化に、こんなにも好かれていて、こんなにも求められているのは、世界一幸せに違いない。

 敬也はわりと本気でそう思っている。


 こうやって、強制的に一旦お預けをくらったって、まったく興奮が落ち着く素振りもない。

 初めての時を思い出す。下心と期待でいっぱいの、ドキドキと興奮。

 でも、何も知らなかった時の、なんとなくの期待とは違って。今は具体的なことが全部わかるのだ。

 あの頃の、身体だけの関係とは違って。身も心もすっかりと委ねて溺れる真尋の痴態なんかも。……決して、他の誰も知らない姿が。


 頭いっぱい胸いっぱいに淫猥な期待が満ちあふれ、ひっきりなしにあれやそれやこれなんかの艶めいた真尋の姿を思い起こしてしまう。

 さすがにちょっと人としてどうかなんて思いもあるけれど。好きな人が自分を受け入れるために準備をしているというのだから、もうそれは仕方ないと声を大にして言いたい。

 しまりなく緩みっぱなしの頬にありありと零れてしまう、多幸感や煩悩や恋心は見逃して欲しい。



 がちゃり、とドアが開く音がして、敬也は鼓動を深めながら下心をなんとか押し込んで、笑顔を向けた。

「おかえり……ま、まひろさん………」


 ちょっぴり憮然とした顔を俯けて、敬也のシャツを着た真尋が立っていた。

 真尋より10cmほど背が高く肉付きの良い体型の敬也のシャツの裾は、ちょうど真尋のお尻をギリギリ隠すくらいの丈で。開いた首元は大きく、白い肌に綺麗な鎖骨から肩のラインが覗いている。


 喉がごくりと鳴って、息をするのを忘れていたことに気づいた。慌てて浅く呼吸を繰り返したが、頭の中は空っぽで言葉が出てこない。ただ、瞬きの間を惜しむほどじっと見つめているしかない。


 真尋はむっと唇をゆがめたまま、ゆっくりと敬也へと近づいてきた。俯いた頬は、かなり赤い。逸らしたままの視線が時々いたたまれないように彷徨って、恥じらいを漂わせている。

 歩くたびに揺れるシャツの裾は、見えそうで見えないような、いやもしかしたら見えてるのかもしれないと期待してしまうような絶妙さで、敬也は凝視してしまうのをやめられなかった。


「ま、ま、ま、まひろさん、………」


 一気に昂ってしまった感情の渦に、大混乱で自分でも自分がわからない。ただ、全速力で駆け抜ける鼓動に胸が痛くて、は、は、と息が乱れた。くらくらと眩暈すらする気がする。なのに、反するようにぞくぞくと餓えた欲望に腰骨が重くなる。


 真尋はそのまま敬也の向かいまで歩み寄ると、言葉なく敬也の脚を跨いでベッドへと乗り上げた。

 それから、わずかに素肌が触れ合う騒めいた感触の中、敬也の肩へと両腕をおいて身を寄せ、静かに唇を重ねた。


「………おまたせ」


 小さく耳元で零された、精一杯の言葉が照れている。

 駆け巡る言葉を口にできないうちに、その言葉を封じるかのようにまた唇が降ってきて、敬也の口は塞がれた。



 焼けるように乾いた喉を潤すように夢中でキスに浸っていると、張り詰めたそこを直接的に撫でる刺激にびくりと震える。

 唇がほどけて、視線を向けてみたけども、敬也の視線に移るのは自分のシャツとそこから伸びるすべらかな美脚だけだった。

 シャツの向こうがゆらりと揺れて、形良い膨らみの間で擦られていることがわかる。数度行き来した後に、奥へと誘い入れられて、こじ開ける愉悦に吐息が震えた。


 見えないからこそ、ありありと頭の中で淫靡に詳細を想像してしまう。だけど見える訳ではなくて、備えようがなく与えられる快にじりじりと焦がれてゆく。


「は………、あっ……」


 甘い息の音を響かせて、ゆっくりと身を沈めてくる真尋の肩が震えて、敬也の肩の上で指がわずかに布地を掻いた。

 眉根をぎゅっと寄せ、淡く開いた瞼で揺れる睫毛の間からは、熱に浮かされて潤んだ瞳がうっとりと敬也を見ていた。とろりと嬉しそうに、幸せそうに、好意をあふれさせた眼差しが、快楽に揺れる。

 艶めいた唇はしどけなく開いたまま淡く舌先を覗かせ、耐えることができずに忙しなく悦を覗かせた甘い声が吐息に乗って耳元に落ちてくる。


 焼け焦げそうな衝動を、耐えることはできなかった。


「………ごめん、ちょっと我慢できない」


「……っ、………あ、ぁ、…………んぅ」


 ぎゅっと真尋の背を抱き寄せて、ぐるりと身体を反転させる。

 背に触れたシーツの感触にも肌を粟立てて、大きく動いた際に受けた刺激に感じ入って、真尋は頭を布地に擦るように首を反らせて吐息を震わせた。白い喉が空気を取り込むために蠢き、巡る脈動に肌を打たせている様子が、あまりに艶めかしくて思考を失いそうだ。

 捲れたシャツが胸の下で波打ち、女性とは異なる、でも男性的とも言えない、作り上げられ引き締まった色っぽい曲線のウエストを覗かせていて、臍の窪みまでもが完璧な造形で敬也を誘う。


 触れたい。全て晒して目に焼き付けたい。肌と肌を重ねたい。

 そう思うのと同時に、このまま自分のシャツを着ていて欲しい。

 うう、と相反する感情に呻いた。

 贅沢すぎる悩みだ。贅沢すぎて、くらくらして、答えすらだせなかった。


 ゆっくり。……ゆっくり。

 最後の理性で出来得る限りに優しく丁寧にと動く。

 合わさる部分の全てがあまりに気持ち良くて、急いた衝動は次第に自制を奪っていく。

 互いの息遣いと擦り切れた声にならない甘ったるい嬌声、肌の間で鳴る濡れた音が耳から入って頭の中を埋め尽くす。

 真尋のとろりと蕩け切った視線は嬉々として敬也の全てを受け入れて、差出していた。すっかりと力が抜けきってくたりとシーツに沈んだ手足が、為されるまま受け取った悦楽に揺れている。


「……まひろさん、かわいい。ほんと、……かわいい。…も、かわいい。好き……大好き」


 あまりにも愛おしくて破裂しそうな胸の内を言葉に零すと、返事をするかのように真尋の内側がぎゅうっと震えて抱き着いてくる。その刺激に感じ入り仰け反って震えた肩が上下するたびに、官能に浸った喘ぎが漏れ聞こえた。

『かわいい』も『好き』も、真尋の性感帯だと、敬也は知っている。

 自分に差し出した心で気持ち良くなって懊悩する姿が堪らなく愛しくて、応える身体の淫らさに追い詰められて、敬也はぐっと眉根を寄せた。


 もっと、気持ちよくなって欲しい。乱れる姿を見たい。触れたい。ずっとずっと繋がっていたい。

 だけど、煽られてすっかりと膨れ上がった劣情が、早く早くと急き立てていた。


「………ごめん、もたない」


 眉尻を下げて真尋の顔を覗き込む。

 ゆらゆらと熱に浮かされ蕩けだした瞳が敬也を陶然と見つめて、忙しなく息を吐く口の端が嬉しそうに弧を描いた。


「………はやく」


 吐息にわずかにだけ乗った声音で囁いて、重たげにゆっくりとシーツから持ち上がった真尋の掌が自らの臍の下をゆったりと撫でて、嫣然と言葉の続きを紡ぐ。


「………………ちょうだ、っ………、あっ……」


 こんなにも焚きつけられて、理性なんて保てる訳がない。

 追い上げる激しい動きに、夢中で互いを貪りつくす。

 体中に敬也への想いを溢れさせる恋人への愛おしさで覆いつくされて、敬也は我を忘れて身を震わすような官能に溺れていった。



「明日学校は?」


「えっと、昼前にひとつ講義があるんだけど、それ以外は課題自学で……課題片付けてきたから」


「でも一つあるんでしょ?」


「ひとつくらい………うう、真尋さんといちゃいちゃ過ごしたいです」


 経験値が高い上に、ボディメイクも含めて運動を欠かせない真尋は、事後の風情なんて感じさせないほど体力がある。

 もうそれに慣れた敬也は、密かにそんな努力の成果をすごいと思っているが。

 あんなにとろとろどろどろに乱れていた名残も見せずに普段の口調で言われてしまえば、少しばかり甘ったれてごねたくもなった。


「ひとつくらいなら、行ってくればいいだろ。………待ってるし」


 大学までの片道一時間強を考えれば、離れる時間は途方もなく長く感じる。

 待ってる、は可愛いし可愛いしとてもいいものを貰った気はするけれど。それにしても拘束時間へは気が重くてしかたなかった。


「………学校出て、就職してからじゃないと、一緒に住めないんだろ」


 溜息とともに零された言葉に、思わず瞬いて真尋をじっと見る。


「だって、俺が何もしなくても、真尋さん養ってくれちゃうでしょ。俺、さすがに好きな人に養われるのは嫌だよ」


「だったら、行ってきて。……待ってるから」


 ふっと意味深く真尋が笑んで、敬也へと告げた。

 この『待ってる』は、今日の講義なのか、それとも……。

 そう思い至ると、敬也の胸は高鳴った。


「そ、そ、それは……プロポーズ?!!」


「さあ。だって、後でちゃんとするんでしょ?」


 からかうように返された台詞は、いつか敬也が言ったものだ。

 胸の中が喜びでいっぱいになって、敬也は真尋の腕をぎゅうっと握った。


「ハイ!行ってくる!!!卒業と就職以上に大切なものはない気がしてきた!!!」


「そう」


 素っ気ない相槌が、笑っている。それが余りにも愛おしすぎて、嬉しくて、幸せで、敬也はうううと唸るしかなかった。


 握った手を逆に引き寄せられて、唇が重なった。


「…………待ってる」


 またも胸のまん中をズドンと吹っ飛ばされた。

 この可愛くて可愛くて可愛い恋人と、この先も一緒にいられる未来が明るすぎて。


「真尋さんの可愛いが過ぎて世界が光に満ち溢れてしまう!うう、輝きすぎて今すぐ夜が明けてしまう……ううう、そうすれば俺は講義にっ……!!そうだ今すぐいちゃいちゃしよう、時間の限り真尋さんを」


「うるさい」


 溢れ出る想いを語ったら、即座にツッコまれた。それもまた可愛い。

 ちょっとだけ不服そうに眉尻を下げていると、再び近づいてきた真尋の唇が、甘やかすように敬也の唇を啄んで。


「………まだ、夜だし。それとも、足りた?」


 耳元に艶っぽく囁くものだから。


 敬也はこの真尋の出張中、頑張って課題を終わらせた自分に心の中で拍手を送りながら、ありがたく残りの夜を味わい尽くすことにした。

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