秘密から… ※わりとがっつり官能R15注意

 絡まる舌の熱さに頭の芯が痺れる。耳に届く乱れた息遣いも、混ざり合ってどちらのものか分からない濡れた音も、身体にぞくぞくとした熱を蓄えていく。

 重なった部分がじっとりと汗ばんで、洋服越しに感じる肌の温度が、触れた胸の波打つ鼓動が、嬉しくて愛おしい。

 はだけられたシャツの間に焦れた掌が優しく忍んで擽る。背を撫で下ろした手の指に背骨の窪みを引っ掻かれて、腹の内側でくすぶった淡い快感に、吐く息に甘い音が混じった。

 好きで好きで仕方がない相手に求められる幸福に身も心も蕩けさせられる。

 もっと、と求める気持ちが同じものだと、全身で感じられる時間は甘美で嬉しくて。

 もっともっと、欲しい。


 だけど、ダメだ。

 何の準備もないままに、なだれ込むことなんてできない。

 出来ないことではないことを知っている。だけど、汚いのも不潔なのも絶対に許せない。

 ぎゅっと片方の掌を握って、真尋は敬也の胸元を押し返した。

 嫌だった。離れたくないし離したくもない。

 泣きたいほど情けない気持ちが、幸せな夢の終が終わったかのようにじわじわと

 胸を染めていった。


「……準備、してないから」

「うん……ゴメン」


 穏やかに離れて行った体温が恋しくて、縋りたくなる。


「……面倒くさくてごめん」

「え、いやいや。面倒くさいことさせてるのはむしろこっちっていうか、してもらってるっていうか」

「……………」

「それに、ちょっと、なんていうか………真尋さんが、俺と、したいって思ってくれてるって思うと、にやにやとまんないし興奮してサーセン」


 ちょっとだけ照れたように、でれでれと幸せそうな笑いを浮かべている敬也の姿に、息が詰まりそうなほどの想いが溢れ出して。


 真尋はがばりと立ち上がって勢いのままに身をかがめ、敬也へと口づけた。

 柔らかい唇を甘く噛んで吸い、リップ音を響かせる。

 少しでも長く、ここに留まっていたいと。


「……待ってて」


「っ………ハイ」


 胸を押さえ、頬を赤く染めて目を見開いている、未だ純情さを残した恋人へ。真尋は楽しそうに微笑んで身を翻した。



 手慣れた作業はつつがなく終わらせて。

 真尋はトイレの中で考え込んでいた。


 じっとりと汚れた下着をはきたくはない。すっかりとはだけられたシャツだけでも再度着込むべきなのか、それとも何の意味もなく羽織っただけの姿でいるべきか。

 わざわざこんな素っ裸に近い格好で、着替えを取りにいくべきだろうか。バスルームなら近いけれど、シャワーを浴びた訳でもないのにバスローブも微妙だし。シャワーを浴びる間待たせるなんてことも、ちょっとひどいのではないだろうか。

 いっそ真っ裸で戻った方がいいのか。

 本当にどうでもいいことに違いない。だけど、一旦気になってしまえばどれもこれも難ありな気がしてしまう。


 ふっと視線がドアへと向かう。

 ぎゅっと握ったまま持ってきてしまった敬也のシャツが、存在を主張するようにドアノブにかかっていて。真尋は胸をドキドキさせながら、じっとそれを見つめた。


 これを着て戻ったら、敬也はどんな反応をするだろう。

 …………ものすごく、喜んでくれるのかもしれない。


 それは、あまりにも恥ずかしくて。どんな顔をしていいかすらわからないけれど。

 どんな格好をしたって、格好なんてつかない状況なんだから。

 裸よりましだってことにしてもいいはずだ。

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