ときどきあまえた(いちゃいちゃ)※R注意
「キスしてもいい?」
一緒のベッドにもぐりこみ、身体を寄せてから、敬也は真尋の顔を覗いて尋ねた。
こんなのは今更だ。
絶対に今更という言葉を否定できないくらいに、さっきまで睦みあっていた。
キスしてダメな訳がない。
なのについこうやって聞いてしまうのは、良い返事が欲しいからかもしれない。
真尋はそんな敬也からわずかに視線を逸らして逡巡し、少しだけ唇の端を歪めた。
手を伸ばすとぐいっと敬也の後ろ頭を抱き寄せて、ちょいと唇を重ねる。
「いくらでも?」
それからまた視線を逸らして、瞼を閉ざした真尋を、敬也は嬉しさそのままにぎゅっと抱きしめて、額に、髪の毛に、頬に、たくさんのキスを落とした。
真尋が為すがままにされているのは、それを許容しているからだ。
大人しく腕の中に納まっているのは、それだけ信頼を得ているからだ。
一見素直でない真尋は、敬也にとってわかりやすい。
真尋は、人に忖度して自分を曲げない。
強くて、完璧主義で、プライドが高くて、甘えることや頼ることが苦手で。
迷ったり、後悔したり、弱気になったり。そんな素の姿を人に見せたくない。
完璧な自分以外を他人には見せない。だから決して、他人と一緒に眠ることはなかったし、肌を寄せ合うことも、全て見せることも拒否していたのだと思う。
だけど、今は敬也だけに全てを見せて、甘えて、頼ってくれる。
他の人に見せることがない姿だと思うと、こうやってただ触れ合っているだけの時間が、敬也には嬉しくて仕方ない。
自分だけに許された、限りなく贅沢な時間だ。そう思うだけで心が躍って跳ね上がり、空も飛べるほどに舞い上がっている。
くすぐったそうに首を傾けた真尋の、薄く開いた唇に口づける。
良く知った感触はたいそう甘くて魅惑的で、ただ一度口づけただけなのに止められなくなった。
柔い唇を食み、濡れた舌を擦り合わせ、熱がくすぶった口腔内を味わう。
次第に乱れる呼吸の音が耳を煽って、胸の中をキリキリとした欲望に染めていく。
真尋の指先が、胸元でおずおずと敬也のシャツを掴んだ。
普段は性に対して奔放なのに、こういう時には遠慮がちになる仕草が、いじらしくて可愛い。
徐々に昂る情動を抑えて、敬也は顔を離した。
あ、の形でしどけなく開かれた艶めく唇から、色づいた吐息が零れるのを見て、もう一度唇で塞いでしまいたい衝動に襲われる。
少し焦点が甘くなった瞳がぼんやりと敬也へと視線を向けて、蕩けそうなほど甘く見つめてくる。
目がハートになるだとか、顔中に好きって書いてあるだとか。都合のいい妄想を形にしたような、アダルトな画像や漫画なんかをゆうに超えている。
そんな表情を向けられるたびに、あまりの胸の高まりに、心臓も息の根も止まってしまうんじゃないかと思う。
「あんまりすると!したくなるから!!!」
敬也は迷いを振り切るように唸って、真尋の額に軽く唇を落とした。
「したらいいだろ?」
けろりと答える真尋の声音はまだ湿っていて、色っぽさが増している。
「でもでも、そういうんじゃなくて!そういうのなくても、一緒にいられて嬉しいって思うし。ただ一緒にいられて、ほんと幸せ感じてるし。でもやっぱ、触ったりキスしたら、もっとしたいって思うし!結局なんかそればっかなのあんまりにもあんまりな……」
「うるさい」
勢いのままに心の内を全て言葉にすると、冷静なツッコミをくらってしまった。でも、真尋の口の端は、微かに笑っている。
「知ってるからいい」
ふわりと花開いた微笑みで、向けられる視線にはまだハートが宿っていて。
それが、あまりにも可愛くて。嬉しくて。幸せ過ぎて。
「真尋さん、ほんと俺のこと好きだよね」
浮かれきったままに、あまりにも自惚れた台詞が口をついてしまった。
敬也は、焦った。なかったことにしてしまいたいくらい、有り得ない事を言ったと思った。
常日頃から、わかってはいる。真尋がどれだけ敬也だけに特別な姿を見せてくれるのか。そのくらい、愛されてるし、大事にされてるという自覚はある。
だけど、本人も持て余しているほどプライドが高くて素直でない恋人に、こんな不遜で自惚れたことを言うのは絶対にダメだと思っていた。
「ばか」
真尋はうっすらと頬を染め、視線を逸らすと、ぽふりと敬也の胸元に顔を埋めて隠した。
じんわりと温かい頬をシャツ越しに感じて、胸の鼓動が早まる。
もごもごと胸元を擽りながら、消え入りそうな声が囁いた。
「あたりまえ」
ドドドドド、と勢いよく動悸が押し寄せた。
頭の中は真っ白で、ただ喜びだけが狂喜乱舞している。
「あああああもう真尋さんが可愛い世界一可愛い可愛いの概念を超えてネオユニバース……」
「なんだそれ」
「真尋さん大好きやばい大好き好きすぎて息の根止まる」
「生きて」
「俺もう三千年生きそう……」
「そこまではちょっと」
「もうもう、ほんと好き!大好き!!!」
「…………知ってる」
胸元から響いてくる、幸せそうな笑い声が、あまりにも嬉しすぎて。
敬也は真尋をまたぎゅっと抱きしめる。
ほんの少しずつ。同じところにはとどまらずに、形を変えていくこの関係は。
ただ喜びと幸せを積み重ねて行くと、疑っていない。
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