むいしき(心の中はやかましい)

 眠っている真尋さんは素直可愛いが過ぎる。

 無防備で、だいたい顔が緩んでて可愛い。

 ぴったりとくっついて来て、当たり前のように腕が絡んでくる。


 正直、落ちるほどのご無体を働いたことは反省してる。でも後悔するには最高過ぎる。

 普段は絶対に汚れたまま寝るのなんて嫌がるのに、汗だくベッタベタで寝てる姿を見るとちょっと申し訳ないけど。でもでも。もうしないとは言わない。断腸も大手術ものだ。


「うぅ…ん……」

 眉間に皺が寄っている。はり付いた髪の毛を撫で上げて、ちょっとだけ考える。

 やっぱ、お詫びにもならないけど、ちょっとだけ綺麗にしてあげよう。

 このベッタベタを拭いてあげるだけでも。気持ち、寝苦しさも違うかも。


 そう思って上半身を起こそうとすると、くいっと腕が引かれた。


 真尋さんの両腕が、俺の腕に絡まっている。むずがるように頬っぺたを腕にすり寄せて、静かな寝息を零す唇がきゅっと不服そうに曲がる。


「何これ、可愛いがすぎるんだけど」


 思わず頭を抱えた。だめだ寝てる人の側でうるさくしたら。

 でもでも。これはちょっと可愛すぎない?


 穴が開きそうなほど見つめていると、長い睫毛が震えて、パチリと真尋さんの瞼が開く。

 起こしちゃったかな。へらりと苦笑を浮かべた俺をまだぼーっとした真尋さんはゆっくりと見上げてきて。

 視線が絡むと、幸せそうにふんわりと頬を緩めて目を閉じた。


 何これ、可愛いも過ぎると世が末じゃない?

 ダメダメ。静かに。寝る子を起こしてはダメだ。

 でもちょっと、もう俺の中で鼓動はバックバクだし。酸素が薄いし。あああああ抱きしめたいけど起こしちゃうし。ちゃんと休ませてあげたいし。

 幸せだけどつらい。幸せすぎるけどつらい。ががががが我慢の時。忍耐力だいじ。今学ぼう。そうしよう。修行だ修行。


 ふうふうと深呼吸を重ねる。


 無意識の真尋さんの破壊力。天使で悪魔でほんとヤバヤバのヤバ。世界滅ぼすレベルの可愛いで堪りません。

 でも。女装姿の真尋さんは、絶対に一緒に眠る事はないって言ってたから。

 こんな姿を知ってるのが俺だけだなんて。

 ああもう、心の中で絶叫。ほんと可愛いが過ぎる!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る