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#疾走! 背脂パンダ

 パンダは走っていた。白と黒の毛並みが風に流れてゆく。


 息が上がる。目の前がゆがむ。しかし止まれない。なぜなら背後から―――



「HAHAHAHAHAHAHA!!!!!!!!!!!!!!!」


 ドスン、ドスンと巨体が足を踏み出すたびに大地が揺れる。

 その振動で足に加わるジャンピングブーストと、巨体の歩みの遅さとで、なんとかつかず離れずの距離を保ててはいるが。一瞬でも油断してしまえば、たやすくその手に捉えられてしまうだろう。


「さあ、チェックメイトだ、パンダ!」


 鋼の巨体から、恐ろしく低く渋いCVキャラクターボイスが鳴り響く。

 顔はモアイ。体は巨大ロボット。装飾はツタンカーメンであるは、追跡の足を緩める事はない。



 パンダは悩んだ。このままではジリ貧というもの。

 なんとかこの追跡者を懐柔かいじゅうできないものだろうか。


「せ……っ、世界の半分をお前にやろう!」


「おーのこーしは、ゆーるしーまへーんでー!!!」


 ダメだ、話にならない!


「シメキリマモルンガーァ~ゼーット!!!!!!」


 追跡者は叫んだ。一定期間置きに宣伝をしなければ、開発費は回収できないのかもしれない。


 締め切り。納期。なんて恐ろしい言葉なのだろう。絶望すら漂ってくる。

 ここで屈する訳にはいかない。まだやり残したことがたくさんあるのだ。

 今宵の黒霧島には、たこわさとスジコンまで準備してある。決して諦めてしまうことはできないのだ。



 パンダは考えた。この状況から生還するためにはどうするべきなのか。

 追跡者の動きは鈍い。一歩がとてつもなく大きい代わりに、行動はスローだった。

 それならば……。


 パンダは思い切り華麗に身をひるがえし、追跡者の足元を抜けて反対側へと駆け出した。

 迫りくるジャイアントは、きっとこの動きについてはこれまい…!


 …………しかし、まわりこまれてしまった!


 ジャイアントはパンダに匹敵するほどキレのあるツイズルを披露した。技術点では負けてしまうかもしれない。だが幸いなことに、ここはスケートリンクではない。逃げれば勝ちなのだ。



 パンダは走った。差し迫る追跡者にあらがう術はないものか。一人で心臓を捧げたところで勝てる相手ではない。

 いや、本当にそうだろうか。戦わなければ、勝てない…。


 パンダは足に力を込めて振り返る。そして、強大なタイタンをにらみ上げて口の端を歪めた。

 ドスン、と草木を揺らして立ち止まった巨体に、パンダは叫んだ。


「モ〇ルスーツの性能の違いが、戦力の決定的差ではないということを…教えてやる!」


 丸腰だけどな。パンダはうなった。


 だが、自分を信じれば龍の戦士にもなれるはずだ!

 パンダは両足に力を込めて、追跡者に飛び掛かった。俊敏しゅんびんな動きで蹴りを繰り出す。


「スクデューシ!!!」


 ――――ぽてん。………コロコロコロ。

 跳ね返されたパンダは地を転がる。


 ついせきしゃ のからだは てつのかたまりとなり なにものも うけつけない!


 ここは最終奥義、ウーシィの指固めしか……。

 跳ねるように立ち上がったパンダは、立ちはだかる巨大な相手の手を見つめた。


 ダメだ、このロボには指がない。絶望した!



 これは、マズい。

 パンダの背筋にじっとりと汗が浮かぶ。


 鉄の巨体と対峙し睨み合う緊張感の漂う中で、ふっとパンダの脳裏に起死回生のアイテムが思い浮かんだ。

 パンダはお腹のポケットをかき乱し、それを探す。

「あれでもない、これでもない、これも違う……あ、あった!」

 甲高い声でわめきながら物をまき散らし、ついに探していたアイテムを手に掲げた。


 ちゃららら~ん♪

「レ~ザ~ポインタ~~♪」


 それは、パンダが以前間違って通販でポチってしまった死蔵アイテム。もちろん殺傷能力はない。

 だが、使い道はある!


「バ〇ス!」


 パンダはレーザー光線を遥か上にそびえたつモアイの目へと照射した。説明書きにもあったように、飛距離もポイントの強さも上々だった。

 ※良い子も良い大人も絶対に真似してはいけません。


 その光を浴びて、巨体は大きくかしいだ。

「あぁぁ、目がぁ、目がぁ〜〜〜あああああああ〜〜〜〜」


 こうかはばつぐんだ!


 パンダは不敵ににやりと笑って決め台詞を吐いた。


「おまえはもう死んでいる」

 嘘だけど。


「わが生涯に一片の悔いなし!」


 渋いCVで強大な鋼の身体が崩れ落ちた。ドシン、と山崩れのような音と振動を響き渡らせて。



 今のうちに。

 ―――――逃げるが、勝ちだ。



 パンダは走った。もはや毛並みは汗だくで、息は乱れっぱなしだった。

 こんなことならば、追われる前に大人しく締め切りを守るべきだった。そうすれば今頃、王座ソファーに腰かけ、祝杯クロキリをあおれていたはずだったのだから。

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