高千穂恋物語
九州の聖地。大分県、熊本県、鹿児島県ともれなく山で接する宮崎県。
大自然の萌える高千穂の地では、宇宙人の襲撃など全く感じないほどの清浄しい静寂で満ちている。
日本の建国神話には諸説あると言えど、ここ高千穂は、
太古の昔、天津神による日本統治の始まりの地。この高千穂が新参者であるゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人に負ける訳などがない。
それは高天原との戦争と言っても過言ではないからだ。伝承以降の出番がなく退屈をしていた数々の神たちは、自分の出番を伺い、誰がこの地に出向くかの会議で賑わっていた。
そんな古く尊い神の熱心に論議を交わしている場から、末端の名もなき神がふっと姿を消したとしても気づく者はいなかった。
清浄しく木々のざわめく参道の脇。澄んだ空気にどこかから静かに響く、身を清めるような鈴の音。
夜になると賑わう舞台は、平日昼間には人の気配もなくひっそりと佇んでいる。
その木板の上で、音もなく風に融けるように滑らかに舞う薄絹。
白くほっそりとした手足が揺れ動く度に、花を咲かせ枝葉に音を奏でさせ、風が歌う。
彼女は美しい頬を緩めて笑いかけ、手を差し伸べる。
目の前にいる青い肌をしたゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人に。
「天津神の末裔の統べるこの国に手出しをしては、高天原の古き神々が黙っておりません」
青い手は女神の手を恭しく握る。
「しかし、ここにきて我々も実績の一つも残さずに退くわけには行かないでしょう」
「では、あなただけでもお逃げなさい」
「いいえ、命尽きるまであなたの傍らに」
女神は困り果てていた。忍び降りたこの地で出会ったゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人の地球侵略軍幹部であるこの男は神敵だ。
しかし、興味から他愛のない逢瀬を重ねる度に、お互いに強く惹かれてしまっていた。
この青い肌、垂れた眉尻ににやけた頬、踊らずには立っていられないような人間とは隔絶した生態さえも、彼女はいつの間にか愛してしまっていたのだ。
「わかりました。共に逃げましょう。そして、新たな世界を作るのです。まだ生命体のいない地で」
女神は決心して、息をするように踊り続けている男へと告げた。
かくして宮崎は高千穂の霊峰で。
ひっそりと新たな天孫が降臨し、ゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人との新しい創世記が始まっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます