続報:大分県

「なーなー、喧嘩しちょってもしかたないやん」

 大分市の仲裁により、別府温泉と湯布院温泉の間の内戦は幕を下ろした。

「大分に有名な所がいっぱいやったら、そんだけいいと思うんやけど。どっちか無くなったら、もっとお客さん減るんやないかな」


 両者は当たり前のその言葉に息を飲んで顔を見合わせた。総合ブランド力が決して高くはない大分県。少しでも協力して県を盛り上げていく必要があるのだ。

 元々「ぬるま湯に浸かっている」気性である彼らは、その提案のもとあっけなく終戦を迎え、固く手を取り合った。


 多くの県民たちは、その様子を和気あいあいとテレビを指さし、暢気に語り合いながら眺めていた。



『佐賀県の独立をはじめとした宇宙人侵略問題。日本各地との情報が分断され、正式な情報が確認されず、一部のインターネット上で情報が錯綜しているこの問題ですが、大分県庁からの公式な意向が発表されました』

 モニターの向こうでは、相も変わらず女性キャスターが神妙な顔でレポートを読み上げる。


『ええと、今回の宇宙人侵略、各県各地の独立宣言問題ですが。大分県は中立を表明することに致しました』

 画面に映し出された会見場。集まったカメラは勿論ローカルの数台だけだ。

 稀にたかれるストロボの前で、大分県知事は手元の原稿に何度も目を配りながら笑顔で宣言する。


『周囲の県の意向がわからない現在、大分県としての判断を下すには尚早であると判断致しました。今はその時ではありません。

 しかし、今までの日本国民に加え、ゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人の日本への来訪が認められているということです。

 大分県は、今、心を一つにして新たなる集客へと踏み出すべきであると考えています。

 その為に、まずは日本国民、新設立国国民、およびゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人のいずれにも分け隔てなく、【おんせん券】クーポン戦略を行いたいと思います。

 今まで積極的に国際交流を行い、留学生の受け入れ等の実績を誇る大分県であれば、それが可能であると考えています』


 会見はいつしか、熱い演説に変わっていた。テレビの前の県民たちは、新たな祭りの匂いに沸き立っていた。


『梅栗植えてハワイに行こう』のキャッチフレーズではじまった昭和の農業革命。

 地味だが根強いどんこ、大分豊後牛などの特産品。

 老舗であるお菓子の菊谷などは、昔ながら、もしくは現代に愛されるお菓子を扱うだけではなく、今や全国のデパートでバレンタインだけに招致されるベルギーの王室ご用達ショコラティエ、エルマンバンデンダー……本国でも1店舗経営に拘り上質なチョコレートを作り上げる『VAN DENDER』の日本唯一代理店でもある。これはマジで美味い神。


 そう、大分県民はぬるいだけではなく、熱い一面も持っていたのだ!


 周囲の県の意向を伺いながら、どの勢力にも与さず、干渉もせず、全てをお客様として受け入れる中立地域大分県。

 人間であろうと、宇宙人であろうと。どなたからも建設的なご意見は喜んで受け付けている。彼らの目標は、ひとえに地域発展だ。

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