ゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星視察

「なぁなぁ、地球侵略っちどうなんちょんの?」


 地球から遥か遠く、アンドロメダ銀河系、ゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星。

 大分県は別府にて、ゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人の幹部たちを温泉でもてなし手に入れた人型探索ロボットを改造し、ちえ家弟系ロボット1.3号はゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人についての調査を行っていた。

 弟系ロボットの任務は、ゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人の趣味嗜好を詳しく知ることで、大分県内に彼らが好む新たな名物を開発する手がかりとすることである。


 ゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星では、青い顔をした紳士淑女が地球侵略中継に沸き立っていた。しかし、地球各地の情報が混乱しているのはこちらでも変わらないようだった。

 ゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星の国際放送で、同星全78か国語で同時翻訳され最新の情報が表示される大モニターのある広場では、現在の日本であればブーイングの嵐であろう密な人混みが発生している。


「あ、中津からあげととり天どっちがイケちょった?醤油が濃い方がいい?とり天はポン酢からしっち言うけどな、別に味ついちょったらそのままイケるやろ。醤油もなー、甘いだけやなくてうめーんよこれが」


 弟型ロボットは人混みで軽食を販売しながら広場に集まったゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人たちから情報をリサーチしていた。

 だが、この緊張感の欠片もない調子のいいチャラい言動に警戒をいだく者はいなかった。話のついでに地球侵略情報を尋ねたとしても、それは雑談の延長でしかなく、素のままの意見を聞くことができた。そう、大分県知事の思惑通りに。



「そうなん、侵略まだわからんの?ぱーっとやればいいんになぁ。で、皆で温泉浸かりにいこうや。大分はもうゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人割引の店もいっぱいやけんな、予約は早いもの勝ちよ。まじまじ。え、予約しとく?アザーッス」


「ああ、中津からあげゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星一号店?どっかの店引っ張ってくるんがいいんやないかな。お勧め?まーまー、一回来てから食ってみてって。大丈夫大丈夫、ちゃんと案内つけるけん、県知事が」


「一号店争いなぁ。え、ウィスルの情報くれるっち?なにそれ。まー俺難しいことはわからんけんなー、言っちょく言っちょく。でもそれ金になるんやろ?取りあえずキープしちょっていい?待遇はバッチリ任せろやけん」


「え、ハーモニーランドっちハーモニー星人の視察拠点なん?視察っちなに?ああ、ハーモニー星人おるんや。ボスは波浪はろうキルディ?それパチもんやんウケるわー。日出つえー」


「おーりゅうきゅう食っとけ。漬けちょんのやけどな、やっぱ生もんは現場で食べるのがうめーわ。うめーもんいっぱいあるけん、やっぱ宿とろうや、お安くしとくけんな。ほら、いっとけって」


 ちえ家弟型ロボット1.3号は、売り子をしながらひたすらゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人と歓談した。特に難しい事は一切考えていない。ただ調子がよく要領がいいだけなのだ。

 そして上手い事ゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人を誘致し、出来高のボーナスをもらう事しか考えていない。



 その様子をモニターに映し出した大分県庁の対策本部では、大わらわで商業的に、あるいはもっと別な方向で鍵になるだろう機密情報を纏め上げている。


 中津からあげゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星一号店の独占権と引き換えに、彼らが地球征服に使用しているウィルスに関する情報が提供されるらしい。これは僥倖なことである。すぐに入手する必要があるだろう。


 しかし、この調子で大分県から次々と刺客うりこを送り込めば、実はゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星を入手する事も不可能ではないのではないだろうか。

 既に、大モニターの前に集まるゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人たちは、弟型ロボットの前で無邪気な笑顔を見せ、列をなして次々と宿の予約、特産品の買い上げを行っている。


 手札だけはたくさん持っていていい。まずは集客。だが、安全担保は必要不可欠だ。


 大分県はたくさんの機密事項を隠し、水面下で県民の安全確保政策を行いながら、今日もブレずに何人なんびとであろうと関わりなく、おもてなしを提供する事に励んでいる。

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