(二)‐12

 伏し目がちに「こんな姿、恥ずかしくて見せられないじゃない」と恵美は言った。僕はその姿を見て、何も言えなかった。彼女の病気の重さ、治療の大変さ、そしてその結果。高校時代、ほぼ毎日一緒だった彼女との日常は二人で共有してきたものだった。それが、自分には共有されていない経験を彼女はしていたというショックと、その経験を想像したときの重大さに、郁雄は病室のドアの前で立ったまま打ちのめされた。

 次の日から一週間、郁雄は毎日病室を訪れた。そして恵美の姿を描いた。大学で実習の課題もあったが、それを放り出して描いた。描かねばならないと思った。矢も盾もたまらなかった。ただそうしなければいけないと思った。そうして一枚の絵が仕上がった。

 幸いなことに、しばらくすると恵美は退院することができた。日常生活も戻った。髪はしばらくウイッグを付けることにしたという。

 郁雄は彼女と一緒にいる時間を増やしたかったが、大学生活が忙しくてままならなかった。そして恵美の方はアート系の専門学校に通い始めた。


(続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る