第33話 終幕
優劣が分け隔たれたのは、それから十数回の剣戟を重ね合った頃だった。
鋸に削り倒され、彼の獲物は刀身の三分の一ほどを失った。覆面男の扱う片手剣の刀身は漆黒に染まっていて希少な鉱石を組み合わせたに違いないが、しかしそれでも、ロティのオーダーメイドした鋸には一歩及ばない。魔導抜きの戦闘であれば、今のロティほど厄介な相手はいないだろう。
ロティは鋸を小振りし、剣先が破損したことに気を取られた覆面男の足肉を削いだ。
「ぐッ……クソッ……」
覆面男は牽制の為に《武器創生》で直剣を生み出し、二人を分かつように放った。
追い討ちを仕掛けようとしたロティは一旦止まり、その間に覆面男は距離を取る。
(この男、負傷して尚も魔導を使うか……こんな手練が、どうして暗殺者なんかに……)
普通の道を歩んでいれば、『王国魔導騎士』ですら簡単に目指せただろう。それがどうして人の道を外れてしまったのか。気にしたところで詮無いことだと理解していても、ロティは彼を少しだけ憐んだ。自ら毒薬を吐き出し、逃げの選択肢を捨てた覆面男のことを、雀の涙ほどは尊敬もした。
(だからといって、自分の大切な物を、彫刻を譲る気はないけどさ)
と、ロティは胸内で自分の気持ちを確固たる物とした。
(だから、もう、終わらせる――)
今のロティの身体は満身創痍を体現していた。四肢に力が入らなくなってきたし、体力も底が見えてきている。肝心の背中に至っては、もはや痛いのか熱いのか、冷たいのか痺れているのかすら分からなくなってきた。派手に動き回っているせいか、傷口も開いてきているだろう。
だが、無論のこと、それは敵も同じだ。
その上、相手は愛剣の先を破壊され、更に傷を負わされている。
それなら、ここで一気にに畳み掛けるのみ。
ロティは横目で彼女に合図と取り、雄叫びを放ち鋸を振るい上げる。
「お、おおおおおっっっ!」
すかさず覆面男は攻撃を受け流そうと片手剣を構えるが、
――飛び掛かる複数の氷の鳥が、覆面男の四肢を凍てつかせる。
戦況を俯瞰しつつ戦っていたお陰で、エルシーの手が空いたことは分かっていた。
ロティと覆面男は単騎戦を繰り広げていたが、最初に多勢で仕掛けてきたのは敵側だ。この覆面男の心意気には関心するし、こんな形で無ければ再度手合わせ願いたいくらいだが、今回ばかりは付き合っていられない。
何しろ、今回はロティ一人で戦っているのではなく、彼ら彼女ら三人が結束して戦っているのだから。
「これで、終わり、だぁぁぁっっっ――」
ロティの気迫篭った一撃は、覆面男の右肩から左下に流れていく。
手応えは良好。肉を裂いた感触を浅くはない。綺麗な鮮血も飛び散っている。
「――がはッ……」
そして、覆面男は吐血し、パタリと倒れ込んだ。
同時に、ロティも目眩を感じ、受け身も取らずふらりと倒れてしまった。
(ようやく……終わった……)
燦々と輝く太陽の光が瞳を刺した。遅れて、勝利の歓声と悲鳴が耳を打つ。やがて彼は眠るように意識を投げ出した。
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