第22話 機会
「――何故だ、何故に暗殺部隊の者が一人も帰って来ないのだッ!?」
バファロスは屋敷の業務室の机を思いっきり叩いて怒鳴り散らかしていた。
彼の目の前には、今回任務に付いていない覆面男が佇んでいる。
静かな夜を破り抜くような怒声を浴びさせられるも、覆面男は嫌な顔もせずに聞き入っていた。彼含め暗殺部隊の者はバファロスに拾われた訳ありの孤児ばかりだ。それを躾け育て上げてきたバファロスは絶対の主人であり、歯向かうことなど彼らには許されていない。
「申し訳ありません、バファロス様。他の者に調査させたのですが、どうやら捕縛され今は監獄に入れられているようです。それも『王国魔導騎士』が見張りをしている王城地下の監獄に閉じ込められたらしく、脱獄も奪還も不可能かと」
「な、なんだとッ!? それでは拷問に掛けられワタシの差し金だということが露呈してしまうではないかッ! 得に国王なんぞに見られでもしたら一巻の終わりだぞッ!」
「……ご安心ください。我らはバファロス様の供人。例え魔導を使った拷問に掛けられることになろうとも、その前に自害しますので」
膝を付いていた覆面男は顔を上げると、口内を器用に動かして舌を出す。その上に乗っているのは禍々しい緑色の球体――毒薬である。彼らは暗殺者であるが故に、捕縛され拷問に掛けられることも珍しくはない。万が一に備えて、常に口内に毒薬の薬を忍ばせてあるのだ。
舌の上に転がる毒薬を見て、ようやく落ち着きを戻したバファロスは覆面男を退室させた。
「クソッ……彫刻師の分際が良い気になりおって……」
バファロスは悪態を吐くと、再三再四、机を殴りつける。
彼は自分の拳が赤く腫れ上がっていることにも気づかず、ひたすらに怒髪天を衝いていた。
「まだだ……まだ策はあるぞ……」
彼は白髭を撫でる癖も忘れて、次の機会を見計らうのだった。
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