第20話 《氷結》

 エルシーの生まれ故郷は遠い雪国だと、孤児院の先生が教えてくれた。

 もっともエルシーが孤児院に預け入れされたのは赤子の頃なので、彼女自身は雪国の景色も両親の顔も覚えてはいないのだが、それでも時折夢に出てくる。顔は陰ってぼんやりとしているけれど、誕生したばかりの自分に涙流す両親の姿が。

 物心ついた頃には孤児院の子供として生活していたし、どうして自分が孤児なのだろうと悩み苦しんだ時期もあったが、その夢のおかげで両親を恨むようなことだけはなかった。むしろ日々磨き上げてきた魔導、《氷結》をいつか両親に披露してあげたいという期待を胸内に掲げながら、今日まで生きてきた。魔導は唯一両親が残してくれた宝物だから――。


「……ここ、は」


 淡い光が霧散し、静かに目を開いたエルシーは状況を確認した。

(なるほど……アリア様と分断させる為に、決して攻撃特化とは言えない魔導使いを連れて来たわけですか)

 眼前で獲物を構える四人の覆面男を見つめながら、エルシーは瞬時に理解する。

 同じ沼地樹海の中への《転移》に、綿密な連携行動が取れる暗殺集団。恐らく長距離に移動させられないのだろうが、アリアと距離を離せた時点で敵が優位なのは間違いない。

(ロティさんとアリア様の居場所を吐かせたいところですが、流石に口が固そうですね……それなら……)

 と、エルシーは【アルマス】を指揮杖のように振りかざして、魔導を発動させる。

 先ほどは洞窟内であったし、他の二人を巻き込んでしまうので全力を出せなかったが、ここならその心配もない。


「――聳え立て、大氷結」


 エルシーが唱えると、四方八方の地面が氷結する。

 そして瞬く間に氷は成長し、敵四人を纏めて封じ込め、何十メトルという高さの氷の塔が完成した。

 空を覆う枝木の群れがあれど、この大きさの氷の塔がいきなり出現すれば気づかないはずがない。そして彼女の氷の魔導を知っている二人ならば、たった今ここが集合場所になったことを察するはずだ。


「……ロティさん、なんとかここまで来てくださいね」


 エルシーは祈念するように、声を震わせて呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る