第16話 奇襲

〈死者の祠〉を踏破した三人は、樹海の中を歩いていた。

 ロティは骨折の痛みに悶えながら、不気味に泡立つ沼地を飛び越えていく。

 エルシーは相変わらずこの沼地樹海が苦手のようで、怯えながらアリアと手を繋いでいた。

 今回、〈死者の祠〉を踏破したことにより、三人の絆は深まったといえるだろう。左腕を支払った代償は大きいが、彼は友達のエルシーと親密度を深められたことを嬉しく思った。

(……魔導で左腕を治しても、しばらくは安静を求められるだろうな)

 作品を作れないことは悔やまれるが、最近は根を詰めすぎていたし、たまには息抜きするのも良いだろう。希少種スケルトンのドロップアイテムは逃げないのだ。左腕が完治してからでも遅くはない。

 彼は薄暗い樹海に呼気を投じると、次の瞬間――


「ロティさん――!!」


 ドンッ、とエルシーに背中を突き飛ばされた。

 彼の背中と彼女の手の間を、何かが擦過していく。通過方向に視線を移すと、大木に鋭利な投げナイフが刺さっていた。魔物ではなく、明らかに人間が放ったものだ。三人はすぐに警戒態勢を取るが、


「……っ、エル、その傷……」

「だ、大丈夫です……かすり傷ですから……」


 ロティは制服が切り破れただけで済んだが、エルシーは腕の皮膚まで掠めていたらしく、真っ白な肌を血が伝っていた。彼女は呻き声を漏らしながら、切り傷を氷で覆い止血する。

(エルシーに助けられたな……)

 不意打ちに彼女が気づかなければ、ロティは投げナイフの餌食にされていただろう。エルシーの魔導も非常に強力だが、その鋭敏な感覚も凄まじいものだ。潜在能力はロティすら上回る。


「……囲まれています。数は十二くらいでしょうか……」

「……多い。わたしがやるから、ロティとエルは自分の身だけ守ってて」


 アリアが腰に携えた片手剣を抜き取りながら言う。

 共に腕を負傷している二人は静かに頷き、この場をアリアに託すことにする。

 草木を踏む音が近づいてくると、彼女はすーっと息を溜めた。開幕速攻で魔導を行使する為だろう。しかし、途端に奴らの足音は消え、姿を見せる気配がない。酸素を巡らせる為、アリアが呼吸をし直すと――

 奴らは、木の上から一斉に飛び降りてきた。

 奇妙な覆面をした武装集団。闇に溶け込むよな黒服を纏い、各々が違う獲物を手にしている。エルシーが予言した通り、数は十二だ。だが、アリアが相手では数の利も戦略も、全てが無意味に成り下がる。


「っ…………」


 しかし、呼吸のタイミングを図られたアリアは、コンマ数秒だけ出遅れてしまう。

 それが、ロティにとっては命取りだった。


「――〈転移〉発動ッ!」


 敵の内一人が腕をかざし先手で魔導を発動させると、ロティとエルシーは淡い光に包まれて、それぞれ別の場所へ転移させられた。

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