3.似たもの夫婦 ③

 鷹雪くんが運転をしている姿を見るのは久しぶり。

 助手席から、運転席に座る彼を見つめる。運転に集中しているみたいで、私には気が付かない。まっすぐと前を見ている。

 ちょっと淋しいけれど、横顔を見るのも好きだからいいや。それに、事故を起こしたりなんてしたら困るし。

 ふたりでお買い物に行くのも久しぶりだなあ。心がうきうきしてる。

 信号で止まれば、鷹雪くんがこっちを向いてくれた。



「俺のこと見てた?」

「へっ」

「亜子ちゃんのかわいい視線がちくちく~っとほっぺをつんつんしてきたからさ」



 へらっと笑って、自分のほっぺを指す鷹雪くん。

 うそ。

 バレてたなんて。

 む、と口を結んで無言を貫こうとしても、鷹雪くんはそれを許さない。

 見てたよねと何度も何度も聞いてくる。

 私のうそをすぐ見破ってしまう鷹雪くん。

 鷹雪くんの視線に口がゆるんでしまう。

 もうお手上げだ。仕方なくうなずく。



「……運転してる姿、かっこよかったから」

「おっ、まじっすか」



 小さくうなずくと、鷹雪くんは嬉しそうに笑う。

 いつもかっこいいって思ってるけれど、見慣れない姿はより一層かっこよく見える。ような気がする。

 それを言ってしまうと、鷹雪くんが調子に乗るから絶対に言わないけれど。



「これからはもっと運転しようかなあ。ドライブ、たくさん行こうか」

「……ふふ。鷹丸たちを預けてね」

「うーん。そこが問題なんだよなあ」



 猫たちがいるから、長い間お家を空けることもできない。実家に預けておくという手もあるけれど、あんまり長期間だと迷惑ではないかしら、なんて心配も。

 だからふたりでお出かけ、というのも少なくて。

 もともとお休みがなかなか重ならないということもあるけれど。



「亜子ちゃんと温泉とか行きたいなあ」

「えっ、温泉?」



 にひ、といたずらっぽく笑ったかと思えば前を向いて運転を再開した。信号が青だ。またしばらくあなたの横顔を見ていられる。



「しっぽり露天風呂とか……ふたりでさあ」

「やだ、またえっちなこと考えてる!」

「ち、違うって!健全です健全!亜子ちゃんこそ、すぐエッチな方に考えてるし」

「それは……鷹雪くんがえっちなんだもん」



 ぷ、とほっぺを膨らませれば、「否定はできませんね……」と観念したように呟いた鷹雪くん。

 左折をするときにちらりと私を向いた。筋の浮いた首筋にどきどきしてしまう。



「でも本当に。亜子ちゃんとふたりでゆっくりしたいなあって気持ちはあるんだよ。旅行とか。デートとか。まだ新婚旅行も行けてないし」

「……うん。」

「よかったら、考えておいてください」



 旅行。

 私が引きこもりがちなせいもあるけれど、旅行らしい旅行といえば高校時代に行った長野くらいだ。

 鷹雪くんの生まれたところ。松本市。

 松本城を見に行った。ふたりで。泊まりで。

 彼の誕生日に。彼の名前の由来となった、『鷹』と『雪』を見に行くために。

 楽しかった。どきどきもした。男の子とふたりきりの旅行なんて、初めてだったから。

 しかも、鷹雪くんの勘違いでホテルはダブルベッド。結局ベッドの端と端で小さくなって眠ったんだけれど。ツインとダブルの違い。その時にしっかり覚えました。

 なつかしいなあ。

 あの時はまだ、子どもで。

 なにも起きなかった。ううん。鷹雪くんが我慢してくれてたんだってことは、いまならわかる。

 でも、いまは大人だ。男と女。一泊。なにが起こるのか。簡単に想像ができてしまう自分が恥ずかしい。

 こっそり赤面をしていると、ホームセンターに着いたようで、駐車をしている。



「……」

「んっ、なに? 見られると緊張しちゃうな」

「男の人の駐車してる姿って、かっこいいってよく言うから」

「あはは、かっこいい?」

「うーん……?」

「え、なんだよ。そのビミョーな返事は」



 もっともっと、かっこいい鷹雪くんを知ってるから。とは、口が裂けても言えない。

 すぐ調子に乗るんだもの。



「一生懸命俺のこと見つめてくれてる亜子ちゃんはかわいいですねえ」

「!」



 むう。

 私はただただ、ほっぺを赤くするだけ。

 ぴ、と1回で車が停車した。

 バック駐車が苦手な私とは大違い。

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